本年度の到達目標を予定通りに遂行することができた。具体的には、前年度に取得した計算データを基に、研究目的であるインテグリン媒介型機械的シグナル伝達機構の解明に取り組んだ。 前年度に作成したフルスケールのインテグリンモデルにPerturbation Response Scanning (PRS)を適用して擬似的なシグナル伝達過程を再現し、headドメインに作用させた応力がインテグリン構造を伝播する様子を調べた。その結果、インテグリンの膝部分(Genu)への金属イオン配位の抑制により、Genuドメインが軟化することで機械的シグナルが急激に減衰する様子が確認された。この事実はGenuドメインとCalf-1ドメイン間に応力伝達経路が形成されることで、細胞外から細胞内への機械的情報の伝達が安定化されるという前年度に得られた事実を裏付ける結果となった。 インテグリンαvβ3モデルに加え、αIドメインを有するα2β1や変異モデルを作成し、機械的引張力を付加する拡張MD計算等を実行することでシグナル伝達特性を比較した。その結果、αvβ3はβ鎖に直接作用した力が局所的な構造変化を連鎖的に誘発し、最終的にグローバルな構造活性化につながることで、基板の機械的情報を細胞内に伝達することが明らかになった。一方、α2β1に作用した力はαIドメイン内で分散し、αvβ3で見られたβ鎖内での局所構造変化を示さなかった。このように、αIドメインの有無がインテグリンの機械的シグナル伝達において重要な役割を果たしていることを明らかにした。以上の計算結果はインテグリンのαIドメインの構造やその中の荷電残基が、シグナル伝達に主要な役割を果たすことを示唆しており、細胞の機械的感受性を調べた既存の実験・計算事実とも整合している。 以上の研究成果は、国外論文へ執筆、掲載され、また国外ジャーナルの記事にも紹介された。
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