研究課題/領域番号 |
20J15648
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
エン ライ 横浜国立大学, 理工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 毛髪 / 再生医療 / 毛乳頭細胞 / 電気刺激培 / 導電性ポリマー |
研究実績の概要 |
近年、毛髪再生医療が注目を集めている。毛髪は皮膚に局在する上皮系細胞と間葉系細胞の総合作用によって発生されている。毛髪再生医療は、毛髪の基本単位である毛包を生体外で人工的に再現し、新たな毛包を患者さんに移植することで、脱毛症の根本的な治療法として期待されている。この実用化には、患者本人の毛包1つから上皮系と間葉系の幹細胞を取り出し、生体外で毛髪100本や1000本分に増殖させる必要がある。しかしながら、この増殖培養中にこれらの細胞の毛髪再生能力が急激に低下するという課題がある。従来は培養液に成長因子を添加するなどして毛髪再生能を維持する工夫が検討されてきたが、未だに十分な手法は確立されていない。本研究では、電気刺激培養について、正常な患者のみならず脱毛症患者の毛乳頭細胞を用いても、有効性がでるように最適化し、毛髪再生医療の基盤技術として確立することを目的とした。 本研究は生体適合性の優れた導電性ポリマー、ポリピロールを用いて実験していた。電気刺激培養用の培養デバイスを作製し、ヒト毛乳頭細胞の培養に利用可能であることを示した上で、電気パルス印加時間の長さ、印加する電流の大きさ、周波数を異なる数値で培養を行い、ヒト毛乳頭細胞の電気刺激条件の最適化を行った。さらに電気刺激培養した毛乳頭細胞で毛包原基を作成し、これを免疫不全マウスに移植すると、生体内では毛幹の形成の誘導を向上できることを示した。また、電気刺激で細胞を活性化する原理解明の検討を行った。確立されたカルシウムイオンチャネル阻害剤の添加における毛乳頭細胞への影響を遺伝子発現の効果で対比して評価した。また、電気刺激培養法で培養したヒト毛乳頭細胞をDNAマイクロアレイチップで電気刺激培養法は効果を出すにはMAPK経路を経由することを証明した。更に事業化向きに患者から初代毛乳頭細胞から、電気刺激培養法の有効性も実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電気化学合成法でポリピロールを作成し、電気刺激培養用の培養デバイスを作製し、ヒト毛乳頭細胞の培養に利用可能であることを示した上で、ヒト毛乳頭細胞の電気刺激条件の最適化を行った。詳細として、まず電気を印加する最適のタイミングを決めるには、0.5 mAの電気パルスを細胞播種した当日(Day 0)、一日目、二日目、三日目に毛乳頭細胞に16分間を印加して、三日目にリアルタイムPCR結果によって、一日目または二日目に電気を印加すると効果的だと判明された。続いて、培養一日目に、0 mA、0.2 mA、0.5 mA、1.0mAのパルスをそれぞれ16分間印加して、0.5 mAと1.0mAの電流条件が一番効果的だと判明されたが、1 mAの電流条件だと、細胞がポリピロール表面から脱落している様子が観察されていたので、より緩和的な0.5 mA電流条件を選んだ。最後に前述の通りに、培養一日目に、0.5 mAの条件で異なる時間を印加して検証した。印加する時間が短いと、効果が現れなく、印加する時間が長いと、細胞にダメージを与えることが示された。 最後に、湘南美容外科AGA新宿院の協力のもとに、患者さん由来初代毛乳頭細胞で電気刺激培養法の効果を確認できた。毛幹の底の部分に局在する毛乳頭組織は約千個の毛乳頭細胞で構築されている。この部分をマイクロ手術によって取り出し、まず普通の培養ディッシュに播種し、一週間の展開培養を行った。そして増幅した毛乳頭細胞を回収し電気刺激培養チャンバーに播種して、電気刺激培養法の効果を確認した。結果としては初代毛乳頭細胞に現れる効果が凍結細胞より著しかった。凍結過程が細胞にダメージを与えたと考えられる。以上の結果で、初代毛乳頭細胞に対しても、電気刺激培養法の効果も実証された。
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今後の研究の推進方策 |
今後と推進方策としては、電気刺激が細胞を活性化する原理を検証実験確認した上で、イオンチャンネルはすべての細胞に存在するため、毛包組成の毛包上皮幹細胞の刺激培養法にも取り込んでみる。まずは患者さん由来毛包からマイクロ手術によって毛包上皮幹細胞の局在するバルジを取り出し、毛包上皮幹細胞を調整して増加をする。そして、最適化した電気刺激培養法で培養した毛包上皮幹細胞を、上皮系において毛髪再生能を示す遺伝子Wnt10b、LEF1などを選び、リアルタイム PCRで定量的に評価を行う。効果性が示された上で、電気刺激で培養した毛包上皮幹細胞を、ヒト毛乳頭細胞と共培養手法を用いて毛包原基を構築する。作製した毛包モデルを免疫不全マウスの皮下に、パッチ法で移植し、毛髪再生能をin vivoでの効果性を検証する。組織免疫染色で毛髪構造の形成と毛母細胞まで細胞の誘導発生などを実証しようと予定する。
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