本研究では、毛髪再生医療のため、ヒト毛乳頭細胞の機能維持増殖に取り込んでいた。従来から毛乳頭細胞をスフェロイド培養すると機能が向上することが報告されていたが、細胞が増殖しないため毛髪再生医療への応用は困難であった。増殖培養における機能低下を防ぐ方法について、2次元平面上で高密度重層培養する新しい手法を考案した。この方法では、発毛関連遺伝子の発現はスフェロイド培養よりも高く維持され、なおかつ細胞数についても毛髪再生医療に必要な細胞数まで大幅に増加することが示された。最後に、高密度重層培養したヒト毛乳頭細胞をマウス上皮系細胞とともにヌードマウスへ移植し、高い発毛効率が得られることを示した。 その後、確立したヒト毛乳頭細胞の高密度重層培養法を脱毛症患者由来の毛乳頭細胞に適用した。さらに、毛包から取り出した毛乳頭細胞と高密度重層培養した毛乳頭細胞の遺伝子発現をDNAチップを用いて網羅解析し、その特徴を明らかにした。特に、毛乳頭細胞の機能維持に関わるパスウェイ解析を実施することで、高密度重層培養法の機能維持メカニズムを明らかにした。 最後に、高密度重層培養法で得られた毛乳頭細胞を用い、ヒト毛包上皮幹細胞と共培養することで、in vitroで毛包オルガノイドの構築に取り組んだ。毛髪の再生医療では、毛包原基などの細胞凝集塊を移植する方法がこれまで注目されてきたが、毛包オルガノイドにより移植用の毛包組織を生体外で作製できれば、クリニックで行われている植毛治療と同じ方法で毛髪の再生医療が実現できる。高密度重層培養法で得られた毛乳頭細胞を用いることで毛包オルガノイドが形成され、不完全ながら毛幹様構造が生体外で伸長する様子が観察された。
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