研究課題/領域番号 |
20J15811
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
浅倉 祥文 京都大学, 大学院生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | collinearity / HOX / クロマチン動態 / イジングモデル |
研究実績の概要 |
本課題は、動物個体の初期発生において見られるcollinearity現象の解明を目的とした。Collinearityとは初期発生においてHOX転写因子群が体軸に沿ってゲノム上の配列と同一の順序で明確な境界を持って発現し、位置情報として機能する現象である。 数値シミュレーションによりHOX転写因子群のクロマチンへの作用を調べるため、統計力学の手法であるイジングモデルと、ブラウン運動モデルに基づく数理モデルを構築した。先行研究との比較を行うことで構築した数理モデルとシミュレーションシステムの妥当性を確認した。 この数値シミュレーションシステムを用いて、転写因子のクロマチン構造および転写制御への影響を調べた。転写因子のクロマチンへの作用により遺伝子領域の転写が誘導されることが知られており、collinearityの中心的な転写因子であるHOX転写因子群をコードする領域では、転写因子が自身の転写を正または負に制御するフィードバック現象が知られている。このフィードバック現象を条件として設定し、シミュレーションを行なった。この結果、転写因子の影響によりクロマチンの立体構造の変化が促されると共に、collinearityにおいて見られる不連続な遺伝子発現を説明しうる、非線形な遺伝子発現変化を観測した。これにより、クロマチンのヌクレオソーム粒子群からなる高分子としての振る舞いと、ヌクレオソームごとの化学修飾が修飾因子を介して示すイジングモデル的性質、そして転写因子自身の発現制御によるフィードバック機構が、collinearityにおける遺伝子発現の不連続性を生じることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は計画の通り、数理モデルおよびそれに基づく数値シミュレーションシステムの構築を行った。本モデルには、ヌクレオソーム粒子の集合体である高分子としてのクロマチンの構造を反映し、さらに転写因子による作用を調べるため、高分子の伸び、曲げ、化学修飾による影響をエネルギー変化として組み込んだ。そして、クロマチンの物理化学的性質に基づく数理モデルに加え、実測データに基づいたシミュレーションを可能とするシステムを構築した。本システムにより解析を行うことでcollinearityにおける遺伝子発現の不連続性を実現する機構を明らかにした。今後、実際の動物個体発生における制御メカニズムを解明するため、生物種ごとに実測データの解析を進める。 また、本研究において理論値と実測値の比較検証を行うために導出した方程式の一部が、動物個体発生や恒常性維持において重要な現象である協調的細胞移動の解析に運用できることが分かり、これまでに当該成果が論文として公表された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行った数値計算だけでなく、解析的な手法も用いることで構築した数理モデルの性質を調べ、クロマチン動態がcollinearityを生じる条件を明らかにする。これに加え、隠れマルコフモデルなどの機械学習の手法を適用することで、エンハンサーの作用や上流のシグナル因子などの推定と検証を行い、実際の動物個体発生における遺伝子発現の制御メカニズムを明らかにする。
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