本研究は、少子高齢化社会における高齢者介護に着目し、高齢者介護に関する家計の意思決定および社会保障制度との関わりに焦点をあて、持続可能な税・社会保障制度の構築に貢献することを目的としている。個人が高齢期に直面する介護リスクが、個人および家計の経済活動・厚生に与える影響及び、親子間の介護財決定が世代間にわたって与える影響を分析した上で、日本の公的介護保険の役割について分析を行うことを目指した研究である。
2022年度は、前年度に引き続き、ベースラインとなるモデルのカリブレーション及び数値計算によるシミュレーション分析を行い、公的介護保険制度改革が個人および家計の経済活動や厚生に与える影響を定量化した。日本の公的介護保険制度の特徴である、皆保険制度と現物給付制度に着目したシミュレーション分析を行い、介護政策における現物給付型皆保険制度の役割を議論した。第一に、皆保険制度は、高齢期の介護リスクから家計を手厚く保護することがわかった。皆保険制度が利用できない場合、介護リスクに対処するために、家計は家族介護または生活保護に頼ることになり、負の厚生効果が生じる。この結果は特に貧しい家計において顕著である。第二に、現物給付型制度は、現金給付型制度と比較して家族介護供給者の労働供給のインセンティブを妨げないこと、現金給付型制度が家計の厚生に与える影響は家族介護供給者の生産性に大きく依存することが明らかになった。
本研究については、国内外の学会において発表する機会を得て、多くの有益なコメントを受けた。
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