研究課題/領域番号 |
20J20010
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹林 ひかり 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 初期視覚野 / 方位 / 空間周波数 / 大きさ知覚 / 両眼視差 / 要約統計情報 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、昨年度得られた知見に関するさらなる検証と、短期記憶における統計表象のバイアスに関する研究の二つを実施した。 一つ目の研究の目標は、複数の視覚刺激(以下、刺激と記載)を仮想的な三次元空間で遠近感が生じるように提示した時、それらの平均方位(平均の傾き)の推定感度が奥行き範囲に伴って低下する原因を検証することであった。感度の低下には、刺激の空間周波数(視角に基づく)、両眼視差、または網膜像サイズいずれかのばらつきが影響していると仮説を立て、心理物理実験を行った。 その結果、各刺激の網膜像サイズのばらつきが大きい場合に平均方位の推定感度が著しく低下することがわかった。本研究は、三次元空間に広がる刺激が網膜へ二次元的に投影され、これらの網膜像サイズの大きなばらつきが生じると、方位の統計情報の推定が困難になることを示唆したものである。 二つ目の研究の目標は、一方の視覚特徴が他方の視覚特徴の統計表象へバイアスを与えるかを検証することであった。そのために空間周波数と大きさという視覚特徴に焦点を当てた。 刺激を二次元的に提示した時、刺激の空間周波数によって一つの刺激サイズまたは複数の刺激の平均サイズ推定に、バイアス(過大評価または過小評価)が生じるか再生課題を用いて検討した。 その結果、刺激を一つ提示した状況では、低空間周波数の同心円状格子模様は高空間周波数のものより過小評価された。これは、空間周波数によって刺激が近づいて見えたり遠のいて見えたりという錯覚が意識されることで、脳内で距離感を考慮したサイズの補正が行われたためと考えられる。一方、刺激を複数提示した状況では、空間周波数による平均サイズ推定のバイアスの差はなかった。しかし、平均サイズは一つの刺激のサイズ推定よりも総じて過大評価されるという結果が得られた。これは、刺激ごとに平均推定に寄与する重みが異なる可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、これまでに行ってきた統計知覚に関する研究成果をオンライン開催の国際会議(Vision Sciences Society)と日本心理学会で発表した。年度当初の研究計画に沿って、昨年度得られた知見に関するさらなる検証と、短期記憶における統計表象のバイアスに関する研究を実施し、それぞれ予想していた以上の結果が得られた。これらの研究成果は令和4年度の国際学会、国内学会で発表予定である。そのため「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、二つの異なる統計情報の知覚の相互作用に着目しながら、統計知覚と注意機能との関連性を検討する。複数の視覚刺激を同時に観察した場合、刺激の特徴についての平均や分散といった要約統計情報が知覚されるが、これと同時に、複数の刺激の中で外れ値(異常値)をもった視覚刺激への注意も促進されると考えられている。このような異なる種類の統計情報の知覚は互いに独立な関係ではなく、例えば複数の視覚刺激が持つある特徴の分布や事前の学習によっても、それぞれの統計情報の抽出速度や精度は変化すると考えられる。そこで、複数の視覚刺激の中の一つの特徴から平均という要約統計情報が知覚されやすい場合の分布特徴と、外れ値という統計情報が知覚されやすい場合の分布特徴を比較し、どのような状況でどの統計情報への注意が促進されるかを心理物理実験で検証する予定である。
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