研究課題/領域番号 |
20J20027
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
山田 伊織 長岡技術科学大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 無機/有機複合体 / バイオセラミックス / リン酸カルシウム / ハイドロキシアパタイト / リン酸八カルシウム / 層状構造 / セラノスティクス |
研究実績の概要 |
微小がん部位の診断と治療を両立する生体安全性の高いリン酸カルシウム (CP) の創製を目指し研究を推進している。具体的にはCPの一種であるリン酸八カルシウム (OCP) やハイドロキシアパタイト (HA) を医療分野へ応用するため,診断能と治療能を両立するCP/有機複合体創製に取り組んだ。これまでに,診断への応用を可能とする発光種としてEu3+に着目し,OCPのCa2+へのEu3+ドープと,OCP水和層のコハク酸イオンによる修飾の両立,及び,光線力学療法と蛍光診断に利用可能なメチレンブルー (MB) のHAへの固定化を達成した。 前者の取り組みにおいては,コハク酸イオンの修飾が濃度消光を抑制し,Eu3+周囲の対称性を低下させることによって発光がより許容されることで,Eu3+の発光強度・効率を増大させることが見出された。また,人の血漿中の無機イオン濃度を模倣した擬似体液中で,一週間以上コハク酸イオンが徐放されることが確認され,その挙動はEu3+の有無により制御可能だった。目視,及び,蛍光顕微鏡で観測可能な赤色発光が観測され,この粒子を取り込んだがん細胞を蛍光顕微鏡で観察することができ,細胞イメージング応用の可能性が示された。 後者の取り組みにおいては,MBの存在状態が合成条件により異なり,HA表面のリン酸イオンと炭酸イオンの存在状態との関連性を見出し,この存在状態の差異が,一重項酸素生成能に影響していることが明らかとなった。この粒子は赤色蛍光を持っており,取り込んだがん細胞を細胞毒性なく蛍光顕微鏡で観察できた。また,粒子を取り込んだがん細胞に対して赤色光を照射したところ,MBから生成した一重項酸素によってがん細胞の一部が死滅した。 以上より診断と治療を両立するCP粒子の創製と,光機能種の存在状態とその機能の関係性を見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度までに,コハク酸(Suc)イオンによるリン酸八カルシウム(OCP)の層間有機修飾とEu3+による光機能化を両立し,さらに,ハイドロキシアパタイト(HA)と光増感剤の一種であるメチレンブルー(MB)の複合を行った。 Sucを含有したEu3+ドープOCPを創製し,Sucイオンの発光特性へ与える影響と,擬似体液中におけるSucイオンの徐放挙動に与えるEu3+の影響を評価した。粒子は目視可能な赤色発光を示し,Sucイオン修飾により発光強度,効率が向上することがわかった。これは,Sucイオン修飾に伴う層間距離増大による濃度消光の抑制に加えてEu3+の対称性の低下によるf-f遷移の許容化によるものと結論づけている。また,Sucイオンの徐放は,一週間以上持続し,Eu3+濃度により徐放挙動が制御された。つまり,この粒子を体内に導入した際,赤色発光によるがん部位の観測ができ,更に,がん細胞中で細胞増殖抑制能を持つSucイオンを一週間以上にわたって放出できた。 MBを固定したHAにおいて,MBの固定量は初期P/Caモル比の増加に伴い増加した。これはHA表面のP-OH基の解離,炭酸量の低下により,MBと相互作用するP-O-やCa2+が露出しているためと考えられた。吸収スペクトルの形状の差異から,HAの表面状態が固定化されたMBの存在状態に寄与していることが示され,この存在状態の差異が,一重項酸素生成能に影響していることが明らかとなった。つまり,MBの光機能は,HA粒子表面の制御により最適化できる可能性がある。この粒子は赤色蛍光を持っており,がん細胞を細胞毒性なく蛍光顕微鏡で観察できた。さらにこの粒子を取り込んだがん細胞に対して赤色光を照射したところ,MBから生成した一重項酸素によってがん細胞の一部が死滅した。 以上より,これらの粒子による診断と治療の両立の実現が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
細胞へ結合・取込させて標識挙動を評価し,高感度・高選択的なイメージングを実証する。濃度の異なるナノ結晶分散液を添加し,分裂・増殖挙動を計測し,細胞毒性を評価する。次いで,モデル微小がんへナノ結晶分散液を添加し,細胞周期・接着密度,ナノ結晶の結合・取込挙動を解明する。更に,微小癌(領域直径が 2 mm 以下)を持つマウス検体に対し,消化管または腹腔から小型蛍光内視鏡でアクセスできる臓器・組織へナノ結晶を噴霧により投与し,生きている状態でのリアルタイムな超早期微小癌の検出を実証する。次いでがん細胞内へのナノ結晶の取込後,レーザー光照射のみによって,光増感剤を介して一重項酸素(1O2)を放出させる。この評価は,1,3-ジフェニルイソベンゾフランが特異的に1O2と反応して生じる吸光度減少と,1O2が三重項基底状態へ戻る際に発する光(波長1270 nm)によって評価する。光照射時間と1O2生成量の関係を解明し,照射時間を最適化する。つまり,光検出した微小な悪性腫瘍を「その場で」治療する技術へと展開する。 さらなる効率的な診断・治療につなげるため,リン酸カルシウムと有機分子の接合界面や光機能種の存在状態と,蛍光特性,1O2生成能といった光機能との関連性の詳細を明らかにし,高機能化に向けた材料創製の指針を構築する。
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