微小がん部位の診断と治療を両立する生体安全性の高いリン酸カルシウム(CP)/有機複合体の創製を目指し研究を推進している。これまでに診断への応用を可能とする発光種としてEu3+に着目し,リン酸八カルシウム(OCP)のCa2+へのEu3+ドープと,OCP水和層のコハク酸イオンによる修飾の両立,及び,光線力学療法と蛍光診断に利用可能なメチレンブルー(MB)のハイドロキシアパタイト(HA)への固定化を達成した。 前者においては,コハク酸イオンの修飾が濃度消光を抑制し,Eu3+周囲の対称性が低下し,遷移がより許容され,Eu3+の発光強度・効率を増大することが見出された。また,人の血漿中の無機イオン濃度を模倣した擬似体液中で,一週間以上コハク酸イオンの徐放が確認され,その挙動はEu3+の有無により制御可能だった。目視,及び,蛍光顕微鏡で観測可能な赤色発光が観測され,この粒子を取り込んだがん細胞を蛍光顕微鏡で観察できた。 後者においては,合成時のP/Caモル比が高い場合,炭酸イオン含有量が低下し,HA表面にMBと相互作用可能なリン酸イオンが露出し,MB固定量が増加した。1O2はMBモノマーによって生成され,MBが水素結合を形成すると1O2生成よりも蛍光による失活が優先される。このことを利用し,会合状態・1O2生成効率・蛍光強度から,P/Caモル比が非常に高い場合HA表面のMBが水素結合を多く形成していた。つまり,粒子表面を制御することで,MBの光機能を最適化できることが見出された。この粒子は赤色蛍光を持っており取り込んだがん細胞を細胞毒性なく蛍光顕微鏡で観察できた。また,粒子を添加したがん細胞に対して赤色光を照射したところ,1O2によってがん細胞の一部が死滅した。 以上より診断と治療を両立するCP粒子の創製と光機能種(Eu3+やMB)の存在状態とその機能の関係性を見出している。
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