研究実績の概要 |
これまでに活性型ビタミンD(1,25(OH)2ビタミンD3)はFOXO1の転写活性を抑制し、FOXO1の標的(筋萎縮)遺伝子の発現を抑制することを見出している。その作用経路を明らかとするために、1,25(OH)2Dを添加した C2C12筋細胞を用いてマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、1,25(OH)2D添加によって、筋肥大や筋分化、脂質代謝、免疫機能に関連する複数の遺伝子発現が増加することを見出した。また、1,25(OH)2Dを投与したマウスの骨格筋での遺伝子発現の変化を調べたところ、VDR、Dgat2、Tgm2(トランスグルタミナーゼ2)が1,25 (OH)2Dを投与したマウスの骨格筋で有意に増加した。1,25(OH)2Dは骨格筋で脂質代謝に関わる遺伝子の発現を調節しているようである。また、Tgm2は筋肥大を引き起こすマイオカインとして知られており、Tgm2が1,25(OH)2Dによる筋肥大に関与している可能性が示唆された。 一方で、骨格筋のエネルギー消費を活性化する転写調節因子であるPGC1α/βに関するin vivoでの検討も進行中である。野生型マウスにおいて、大豆イソフラボン投与により白色脂肪組織重量の減少傾向が観察された。さらに大豆イソフラボン投与は、骨格筋のエネルギー消費関連遺伝子の発現を増加させることが示唆された。この実験により、大豆イソフラボンは骨格筋のエネルギー消費関連遺伝子を活性化することで抗肥満効果を呈する可能性が示された。現在、PGC1αを欠損させたマウスに大豆イソフラボン含有の食餌を摂取させ、その肥満関連の表現型を解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究全体に進捗が見られた。ビタミンDによるFOXO1抑制に関しては、活性型ビタミンDである1,25(OH)2Dを添加した C2C12筋芽細胞を用いて、マイクロアレイによる網羅的解析を行い、ビタミンD添加により変動する因子・経路を明らかにした。得られたデータから1,25(OH)2D添加によって、筋肥大や筋分化、脂質代謝、免疫機能に関連する遺伝子が発現増加することを見出した。本研究成果を論文にまとめ共著者として英文学術誌に報告した(Journal of Nutritional Science and Vitaminology 68: 65-72, 2022)。 一方、PGC1α/βに関して、マウスに大豆イソフラボンを与え、肥満関連の表現型の評価を行った。その結果、野生型マウスにおいて大豆イソフラボン投与により白色脂肪組織重量の減少傾向や骨格筋のエネルギー消費関連遺伝子の発現増加が見られることを明らかにした。 現在、遺伝子改変マウスを用いたin vivoでの実験を実施中であり、来年度の更なる研究の進展が期待される。
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