研究課題/領域番号 |
20J20092
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
西塚 孝平 東北大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 形成的アセスメント / ESD / カリキュラム開発 / 改善 / 拡張的学習 / 文化的スクリプト / フィードバック / 第三空間 |
研究実績の概要 |
1点目は、文化によって媒介された形成的アセスメントというアイディアの理論的基盤の強化である。昨年度は、主に心理測定学の分野が言及してきた、活動の交換価値を高める形成的アセスメントから、拡張のためのアセスメントが導かれるまでの、因果プロセスの論究が不十分であった。そこで、前者の先行研究を批判的に検討し、アセスメントの生態学的合理性の解明、人格的発達とコミュニティレベルでのアセスメント概念の解釈等の課題を指摘した。また、日本の教師と大学生を対象にした「見取り」の構造に関するアクティブ・インタビューを実施し、アセスメントにおける文化の役割を明らかにした。さらに、拡張のためのアセスメントを駆動させる成立条件を探索したところ、第三空間の形成、文化的に最適なアセスメント概念の構築、子どものエージェンシーを豊かにするプロセスであることを突き止めた。 2点目は、使用価値の拡張に資する形成的アセスメントの実証研究の蓄積である。目標準拠とは異なるタイプのアセスメントの意義と課題の解明を目的に、イプサティブ・アセスメントを高校1年生の探究学習に組み込み半年間の実験を行った。イプサティブ・アセスメントはアセスメントの心理測定学的と社会文化的立場を橋渡しする理論として、前者から後者への移行を論理的に説明する役目を果たした。また、前述の成立条件に従いながら、教師の形成的アセスメント概念の獲得プロセスについて、私立中等教育学校を事例にした介入研究を実施した。教師が形成的アセスメント概念をわがものにしていくプロセスを拡張的学習と捉えたうえで、介入を非同期的に行う手法が拡張的学習にどのように寄与するのかを探求した。その結果、非同期型形成的介入は、形成的アセスメントの概念理解と実践を単発的-技術的から持続的-文化的なものへと変革させていく支援法であると結論づけられ、拡張のためのアセスメントの促進が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
教師の世界と研究者の世界をつなげるような介入研究を推進させた点に大きな成果がある。はじめに、学習の使用価値的側面を高めるイプサティブ・アセスメントの実験を行い、生徒ひとりひとりが「自身にとって重要と思われる」フィードバックおよびフィードフォワードを受け取り、学習を変容させていくプロセスを分析することができた。同時に、生徒個人と教師の二者間の関わりのみでは、学習の社会性・文化性がかき消される傾向にあり、アセスメントが技法論に回収されるリスクも確認された。本質的にみて、形成的アセスメントは集団的、協働構成的、瞬間的、不可逆的であり、非透明性と非中立性も兼ね備えた相互応答型・参加型ペダゴジーの範疇に入る。したがって、集合的な主観と意識の次元から、生徒と教師の関係づくりがどのように行われるのかに焦点を合わせる必要性に迫られた。そこで次に、形成的アセスメント概念を集団的に構築するための対話の場(第三空間)に着目し、教師たちがどのように概念形成を進めているのかを分析した。本年度に打ち出した非同期型形成的介入とは、文化的に最適な考え方とやり方で、教師たちの手で形成的アセスメント概念を形成していく学習を非同期的に鼓舞するための方法論のことである。これにより、「物事をより良く改善する文化」を学校組織が構築していくプロセスにアプローチしやすくなり、本研究題目の「カリキュラムの効果的開発」と結びつけることが可能になった。 いまだ十分な考察ができていないのは「組織協働」の部分である。近年の学校教育は、様々な主体とパートナーシップを組み、多重な関係の中で教え学ぶ運動を加速させている。この中でアセスメントを捉えるには、関係者の能力、性格、役割、利害関係や、教育と学習の学習資源など、学習コミュニティを支えている複合的な資本を巻き込んだ議論が必要になり、このことが2022年度の研究関心の的である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では、これまで得た知見にもとづき、本研究テーマの核心である組織協働型ESDカリキュラムを実証レベルの分析対象として扱う。地域と学校の協働が編み出す「拡張のためのアセスメント」とはどのようなものであり、どうすればそれができるようになり、ESDカリキュラムに何をもたらすのだろうか。そこでは、2020年度の課題の1点目に挙げた「教育アセスメント実践を実際の教育活動から直接すくい出し、分析の単位として直接の対象とすること」も加味されることになる。合わせて、次の2つの課題にも対処する予定である。第1に、多様なタイプが混在して行われる教育アセスメントの理論的包摂である。本研究では専ら社会文化的なアセスメントを対象にしてきたが、学校教育では行動主義的なものから社会文化的なものまで幅広く認められる。この現実は、これまで展開させてきた「拡張のためのアセスメント」をレンズにしたときに、どのようにそしてどれだけ理解できるだろうか。実際のところ、心理測定学や学習科学が提唱してきた形成的アセスメント論の理論的枠組みは効果的だといえる場面もあり、それと「拡張のためのアセスメント」の関係性を明らかにする必要がある。第2に、「拡張的学習によって教師は形成的アセスメントをできるようになるという、逆方向の視点からの考察」が、引き続き求められる。本研究が行ってきた様々な介入手法の中で、あるいは介入者の手から離れている状況で、何が教師たちによる形成的アセスメント実践を持続可能にさせるのかを検討することが、本研究成果の「学校を基盤としたESDカリキュラムの開発」実践への寄与という観点からみて重要である。 なお、「フィールドを小学校・中学校にまで広げる」点だが、今年度内に成果をまとめることが難しい状況にあるため、フィールドワークを続けてきた高等学校の中で考察を優先させ、分析を着実に進めることを計画している。
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