研究課題/領域番号 |
20J20117
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
石井 咲 学習院大学, 人文科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | ロラン・バルト / 文学理論 / 文学批評 / 中動態 / エクリチュール |
研究実績の概要 |
本課題2年目となる2021年度は、まずロラン・バルトのエクリチュール概念にかんする昨年度の研究成果をさらに押し広げるかたちで、この概念が由来する「書く」を意味するフランス語の動詞を作家がいかに捉えていたのか検討した。それにあたり、バルトが1970年に発表した論考「書くは自動詞か?」を対象に、動詞の〈態〉、とりわけ〈中動態〉に着目しエクリチュール概念を分析した。その結果、バルトが論じる〈中動態〉は、フランスの言語学者エミール・バンヴェニストの態にかんする論考にあらわれるそれに依拠しているものの、ここにさらにギュスタヴ・ギヨームによる動詞にかんする理論を接続したものであることが明らかになった。これによりバルトがエクリチュール概念に中動態を引きつけて論じる時、それはテクストと書き手の〈相互生成性〉や〈相互作用性〉を強調するためであったことが裏付けられた。この研究成果については、テクスト研究学会第21回大会にて口頭発表し、その後論文としてまとめた。これは2021年度末に刊行された同学会学会誌『テクスト研究』第18号に掲載されている。
2021年度後半は、これを踏まえつつ、1970年代におけるバルトの旋回に注目した。権威的な作者や、その主観性を忌避していたにもかかわらず、この時代に入るとバルトは自身について記したテクストを残すようになったためである。この一見矛盾する方向転換を明らかにすべく、バルトの複数テクスト(『ロラン・バルトによるロラン・バルト』、1975;『恋愛のディスクール・断章』、1977)を対象に、〈発話主体〉に着目しその形成プロセスを検討した。この成果は、2021年度日本フランス語フランス文学会関東支部大会にて発表し、現在論文の投稿の準備をしている。また、これらの研究と並行して、本年度も昨年度に引き続きバルトの『作者の語彙』の翻訳作業も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度はロラン・バルトのエクリチュール概念の基盤となる概念やタームを整理し、また肝心なバルトのテクストの読解も進めることができた。これらの研究成果は2回の口頭発表と1本の論文に結実したといえ、ほぼ従来の計画通りに進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題3年目である次年度は、ロラン・バルトの晩年のテクストを対象に設定し研究を進めていく。とりわけ、『恋愛のディスクール・断章』と『明るい部屋』においては見逃すことのできない発話主体の変化がみられるため、これを精査する必要がある。また、バルトの高等研究実習院でのセミナー記録においては、エクリチュール概念をめぐる発話主体の問題が見られるため、この機関におけるバルトの言説も考慮にいれて分析を行う。なお、セミナー記録についてはすでに出版されているものに加えて、コロナウイルスの感染状況が許せば、フランスに保管されているその他の資料も含めて調査する予定である。ここまでの成果と来年度の分析をもとにして、博士論文の執筆を進めていく。
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