研究課題
冬虫夏草は約 500 種程度の存在が確認されている、昆虫病原性真菌である。現在では、宿主昆虫を標的として感染する能力を利用した生物農薬(病害中防除)などに利用されている。しかしその宿主感染や子実体形成の詳細な分子メカニズムは未解明である。本研究ではこれまでに、細胞間相互作用に関与することが知られているレクチンタンパク質に着目し、「サナギタケ由来レクチンが宿主感染から子実体形成に関与しているのではないか?」という仮説のもと、サナギタケから新規レクチン(CmLec4)の精製・遺伝子クローニングを行った。さらに、その標的タンパク質がカイコ蛹中の成長に関与している性特異的貯蔵タンパク質(SP2)であることを明らかにし、異種発現させた CmLec4 を宿主であるカイコ蛹に接種すると羽化を抑制する可能性があることを見出している。また、サナギタケの CmLec4 遺伝子破壊株の作出に成功し、破壊株において子実体形成能が有意に減少することを見出した。そこで本研究ではより詳細なCmLec4およびその他サナギタケのレクチン遺伝子群の機能を解析するため、①CmLec4の機能解析・生体内での挙動を確認すること、② CmLec4が標的とするカイコ中のSP2タンパク質の構造および相互作用解析、③サナギタケのレクチン遺伝子群の破壊株の作出を行うことを目的として研究を行う。上記課題を遂行することにより、菌-昆虫間のレクチンの生体内機能の解明を目指す。
2: おおむね順調に進展している
冬虫夏草サナギタケ(Cordyceps militaris) の宿主昆虫の相互作用にかかわる分子としてレクチンタンパク質に着目して研究を遂行してきた。令和2年度では、冬虫夏草サナギタケ由来レクチンの標的タンパク質の精製し、PNGase F処理によってN型糖鎖を遊離したタンパク質は、未処理の標的タンパク質と比較してレクチン活性が低下したことから、CmLec4 が蚕のサナギ中の Sex-specific storage-protein 2(SP2)タンパク質を認識することを明らかにした。また、遊離したN型糖鎖を精製後にラベル体を付与し、その糖鎖構造解析を MALDI-TOF/MS 解析によって推定した。上記結果は現在投稿論文を作成中である。
今後は、(1)CmLec4の異種発現体をフロンタルアフィニティークロマトグラフィーを用いて広範な糖結合特異性を決定すること、(2)CmLec4の抗体を作製し、蛍光染色によって生体内での局在を観察することを目標としている。また、他の昆虫病原性真菌がもつCmLec4のオルソログタンパク質の諸性質を検討して、宿主認識に関与しているか推定する。
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Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
巻: 85 ページ: 630~633
10.1093/bbb/zbaa058
http://c-bio.mine.utsunomiya-u.ac.jp/suzuki/