研究課題/領域番号 |
20J20172
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木村 萌 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | トンネル磁気-誘電効果 / ナノコンポジット薄膜 / スパッタリング / 酸化物セラミックス / 磁気特性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、酸化物誘電体セラミックス中に磁性金属ナノ粒子を分散させた磁性金属-酸化物誘電体ナノコンポジット薄膜を作製し、機能変換特性の発現および高性能化させることである。当研究グループが発見したトンネル磁気-誘電(TMD)効果は機能変換特性の一つであり、室温で磁場によって誘電率が変化する効果である。TMD効果は、誘電体セラミックス中に分散した磁性金属粒子の形状、粒子サイズ、粒子間距離、粒子表面状態に大きな影響を受ける。すなわち、TMD効果の発現および高性能化には膜構造の制御が必須である。 初年度にあたる本年度は、成膜に用いる差動圧力スパッタリング(DPS)装置の改良と本装置による膜の作製および膜構造の制御を目的とした。具体的には、スパッタカソードから基板に照射されるプラズマの範囲を制限するためのプラズマ制限絞りを設置し、スパッタ照射面積を変化させ、Co-MgO系薄膜を作製して膜の構造、磁気特性、電気特性、および機能変換特性を評価した。 DPS法により、Co-MgO系ナノコンポジット薄膜が得られた。プラズマ制限絞りを用いない場合は、楕円形のCoナノ粒子が結晶性MgOマトリックスに分散した構造を有し、TMD効果は発現しなかった。一方、プラズマ制限絞りを用いた場合は、極小さいCoナノ粒子が基板の垂直方向に並んだ構造を有し、Co-MgO系ナノコンポジット薄膜で初めてTMD効果を発現することに成功した。 上記の結果より、膜構造の制御にはプラズマ制限絞りによるスパッタ照射範囲の最適化が有効であることが分かった。今後、他の酸化物マトリックスを用いたナノコンポジット薄膜においてもTMD効果および機能変換特性の発現が期待できることから、研究を進めるうえで重要な成果であると判断できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は当初の目的通り、Coナノ粒子の酸化を抑制するために差動圧力スパッタ(DPS)装置を改良し、磁性金属-誘電体ナノコンポジット薄膜を作製した。まず、基板ホルダー上の基板位置を最適化し、同一基板上に成膜される膜の組成ムラを改善した。次に、電熱線を用いてDPS装置内のベーキング効率を向上させ、実験再現性を向上させた。これらの工夫に加えて、新たにプラズマ制限絞りを考案した。プラズマ制限絞りはDPS装置内に設置することで、成膜時に基板に照射されるスパッタ面積を制御することが出来る。スパッタ面積の最適化により膜構造の制御を実現したことから、Co-MgO系ナノコンポジット薄膜において初めてTMD効果の発現させることができた。この成果は日本金属学会2020年秋期講演において評価され、『優秀ポスター賞』を受賞した。プラズマ制限絞りは、他の組成の組み合わせをもつナノコンポジット薄膜の作製にも応用が可能であり、今後の研究の進捗を大いに加速させることが期待できる。 以上より、本年度は当初の計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で成膜条件の最適化はおおむね達成し、加えてTMD効果を発現する新しい磁性金属と酸化物マトリックスの組み合わせを発見することが出来た。次年度は主に組成探査に注力する予定である。まずはCaO、HfO、Ta2O3などの単酸化物マトリックスを用いた単純な組成系のナノコンポジット薄膜を作製し、膜構造・特性を評価する。次に、SrTiO3やBaTiO4のような複酸化物をマトリックスに用いた複雑な組成系のナノコンポジット薄膜の作製にも挑戦する。様々な酸化物をマトリックスに用いた薄膜を系統的に調査することによって、磁性金属―酸化物誘電体ナノコンポジット薄膜における膜構造と機能特性および機能変換特性の関係性を見いだすことを目標とする。 上記と並行して、評価方法の改良も行う。測定困難な100 MHz帯において安定して誘電特性を測定することを目的に、当研究室で独自に開発したTMD効果測定装置の改良を計画している。また、これまでの研究により磁性金属-酸化物系ナノコンポジット薄膜の光透過性がよく、表面平滑性も優良であることが明らかになったため、これらの薄膜において光学特性の評価も新たに行っていく。光学特性を評価することによって、膜の光学バンドギャップ、結晶化率、誘電特性などの多くの情報を得られることから、研究の進捗が大いに前進すると期待される。 得られた成果は適宜、国内および国際学会で発表し、フィードバックを行う。また、学術論文誌へ英文投稿する予定である。
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