本研究の目的は、ナノコンポジット薄膜のマトリックスに酸化物を用いた、新奇な機能変換材料の開発である。具体的には、磁性金属-酸化物ナノコンポジット薄膜を作製し、トンネル磁気-誘電(TMD)効果やトンネル磁気-光学(TMO)効果のような磁気誘起機能変換特性の発現および高性能化を目的とする。 最終年度にあたる当年度は、当初の計画通りに新奇な機能変換特性の発現および高性能化、そしてこれまでの研究成果の総括に注力した。大きな成果は3つある。1つ目は、作製したCo-Al2O3系薄膜に熱処理を施すことで膜の構造を制御し、弱磁場におけるTMD効果の向上に成功した。具体的には、報告されている同組成膜の弱磁場H = 200 kA/mにおけるTMD効果0.04%を、膜構造の制御により75倍である3.0%まで向上させることができた。 2つ目は、これまで1報しか発現が報告されていなかったTMO効果に関して大きな発展を遂げた。具体的には基礎的な研究が不足していたナノグラニュラー構造に起因する光学特性の評価法として、エリプソメトリー法による解析に挑戦し、手探り状態で解析を始め、最終的にCo量と光学特性の関係性を明らかにした。これにより、TMO効果が発現する条件を見出し、Co-Al2O3系ナノコンポジット薄膜においてTMO効果を発現させることに成功した。 3つ目は、博士課程における研究成果を酸化物マトリックスの熱的安定性の観点から体系的に整理し、コバルト-酸化物系ナノコンポジット薄膜における磁気・電気・光学特性について、膜構造および各機能特性の関係を博士論文として総括した。 上記の結果は、今後TMD効果およびTMO効果が発現する磁性金属-酸化物誘電体ナノコンポジット薄膜を作製する上での大きな知見であり、研究を進めるうえで重要な成果であると判断できる。
|