研究課題/領域番号 |
20J20184
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
清水 杜織 東北大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 機構学 / 磁気機構 / 補償機構 / アクチュエータ / 可変剛性 / ロボットグリッパ / 電磁ブレーキ |
研究実績の概要 |
応答性・所要時間・消費電力の観点から、ロボットグリッパは「物体に接触前は指が高速に接近し、接触後は高把持力を維持」という状態切替を単一アクチュエータで実現することが理想である。これにより工場ラインの高効率化や独立電源で稼働するロボットの長稼働時間化が達成される。これをトグルにより複雑な電子制御抜きに達成する負荷感応増力機構が提案されてきたが、動作状態が二値的なため把持力が調整不可能である課題を有した。 本研究は解決策として、永久磁石とその吸着対象面で物体を挟み、磁気吸着に連動して把持力が自発的に増大するグリッパ機構を提案する。これは磁石-吸着面距離の制御により把持力を連続的に調整可能である。さらに、吸着力がモータ負荷を増大させぬよう、同一の距離特性のばねの反発力により磁石を変位によらず力の平衡点に置く「内部力補償型磁気吸着機構(広瀬ら、1984)」の概念を発展的に適用した。 本年度は、把持力の増幅メカニズムのモデル化を行うに際しての課題と判明した、補償機構の要である非線形ばねが永久磁石の変位-力特性に基づいて設計される一方で、その実際の動作がグリッパの指間距離に依存するため把持対象物形状との把持幅差によって把持力が変動してしまう点について、二つのアプローチから解決を試みた。 一つ目は、グリッパの指部に格納された磁気吸着機構を構造的に分離して、指の接触動作が完了してから吸着動作が開始することで把持幅によらず同等の把持力補助が得られるよう、レバー式の無段階クラッチ構造を新たに考案し試作を行った。 二つ目は、把持幅が既知・一定の物体に対しては現状の構成で容易に適用可能であるとの発想から、制動・解除時にのみ僅かな電力を消費する永電磁ブレーキとして応用し,ソレノイドの消費電力比で摩擦トルクを8.7倍に向上させる高効率化を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染拡大防止策の一環で引き続き研究活動への支障が生じていたものの、最大限の工夫を重ねたことで考案機構の原理実証を進め、その具体的応用例や内部力補償という概念を拡張した無段階増力機構の研究成果をもってロボティクスの主要ジャーナルおよび付随する査読付き国際学会発表への投稿を複数件完遂できた。 年度計画で予定していた動作モデルの構築については、前述のとおり新たに判明した把持幅差の課題に対する機構的解決策の模索が先行する必要があったため年度内に完了はしなかったが、これまでの成果を反映して製作している最終機をモデル対象とすることで次年度中に達成できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、最終年度として、これまで試作してきた原理機の挙動の観察を通じて明らかとなった要改善点の知見を集成した完成機の開発を目指し、以下の研究を行う予定である。 ◎より厳密なモデル化が可能な構造への改良 ・・・前年度において、「補償機構の要である非線形ばねが永久磁石の変位-力特性に基づいて設計される一方で、その実際の動作がグリッパの指間距離に依存するため把持対象物形状との把持幅差によって把持力が変動してしまう」点が把持力の増幅メカニズムのモデル化を行うに際しての課題と判明した。本年度では、新たに考案した、グリッパの指部に格納された磁気吸着機構を構造的に分離するレバー式の無段階クラッチ構造を原理機に組み込むことで、指の接触動作が完了してから吸着動作が開始することで把持幅によらず同等の把持力補助が得られるものとする。 ◎動作モデルの洗練 ・・・考案機構では、磁石接近による吸着力増大とばね圧縮による補償力増大、そして把持指・対象物の変形による弾性力増大とが相互作用的にアクチュエータ負荷を増減させつつ把持過程が進行する。機構をばね-質点系とみなし対象物形状・材料特性・指送り量から生成把持力を推定可能とする動作モデルを構築したり、変形量と応力が循環解を与える把持力理論式の数値解を計算機での構造解析によって明らかにしたりすることで、アクチュエータによる操作入力と把持力の相関の推移を予測可能とする。これらにより、ロボット本体からの目標把持力の入力のみによって制御可能な独立のロボットコンポーネントとしてパッケージ化することを目指す。 ◎実環境への導入 ・・・部品点数削減や材料選定による高剛性化により損失低減と把持力の予測性向上を行う。一般的なロボットアームなど、実環境における動作検証と応答性・消費電力・耐久性の評価を行い、既存手法との性能比較と設計の実用的最適化を進める。
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