研究実績の概要 |
採用最終年度である2022年度は、次のように多くの成果を挙げることができた。(1) 含水流紋岩質メルトの減圧発泡における系の温度変化の数値計算において、これまで水の離溶熱 (溶解熱の逆符号) の圧力依存性のみを考慮し、温度依存性を無視していたが、両方を考慮するようにコードを改良した。これにより、離溶熱のもつ顕著な温度依存性が系の温度変化にもたらす影響を評価できるようになった。数値計算の技術面では元・東大地惑所属の福谷貴一氏の多大なる支援を受けた。(2) ただし、溶解熱の温度依存性の示す複雑な振る舞いは、あくまでケイ酸塩 (の架橋酸素 O) と水 (H2Om, OH) の理想混合を仮定していることに依拠している可能性があることに気づいた。というのも、現実にはケイ酸塩と水は低圧で不混和領域をもち、ケイ酸塩メルトに水が溶解する際には混合熱 (溶解熱) および体積変化が発生することが実験から確認されているからである。Stolper (1982) 以降、理想混合近似は良い近似として知られていたが、今一度見直す必要がある。(3) この問題意識は前年度に再発見した「ケイ酸塩メルト中の水の部分モル体積のパラドックス」と非常に密接に結びついていることにも気づいた。すなわち、これまで見過ごされてきた混合の非理想性をきちんと評価することで、ケイ酸塩と水の混合という地球科学において極めて根本的なトピックに登場する諸々の化学熱力学パラメータの「実験による測定値」と「理論的な見積り値」の整合性を担保できるようになるのではないかという考えに至った。その先の具体的な計算はいまだ不十分ではあるが、以上の思考プロセスを博士論文としてまとめた。その途中過程では九大地惑の池田剛准教授・吉田茂生准教授と複数回にわたる議論を行い、非常に有益な助言を得た。
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