研究実績の概要 |
令和3年度は、患者固有モデリングフレームワークであるPasmopy (https://github.com/pasmopy/pasmopy)を開発し、乳がん患者の層別化をおこなった。乳がんは、ホルモン受容体やHER2受容体の発現レベルから4つのサブタイプに分類される。その中でも、トリプルネガティブと呼ばれるサブタイプはエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、およびHER2受容体のいずれも存在せず、他のサブタイプと比較して予後が悪いことが知られている。さらに治療標的となる受容体が発現していないことから、新たな治療戦略を見つけることが急務である。本年度は、このトリプルネガティブの乳がん患者について分子メカニズムを記述した数理モデルを作成し、予後の予測と治療標的の同定を目指した。 モデル内の反応速度定数を決定するために、乳がんの4つのサブタイプを代表するサブタイプであるMCF-7, BT-474, SK-BR-3, MDA-MB-231の細胞株からEGF, HRG刺激時のタイムコースデータをウェスタンブロットにより、さらにそれぞれの細胞株の遺伝子発現量をCCLE(Cancer Cell Line Encyclopedia)データベースより取得することで、それらの対応関係をパラメータに学習させた。学習後、TCGA(The Cancer Genome Atlas)データベースより取得した乳がん患者固有の遺伝子発現データを入力とし、患者固有のシミュレーションをおこなった。 各患者のコンピュータ上での動的な応答特性は様々な特徴量として抽出可能であるが、その中でもEGF, HRG刺激時の最大値の情報を使用するとトリプルネガティブ乳がん患者の予後を分類できることを示した。さらにこの分類結果は、従来の静的な遺伝子発現データのみに基づく分類と比較して、より明確に予後を分類できることがわかった。
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