本研究課題では,伝播関数の解析的構造から状態空間の情報を引き出すアプローチを中心に,ゲージ理論の非摂動的な性質,特にカラー閉じ込め機構の理解を進めることが目的である.特に,グルーオンやクォークの伝播関数において存在が示唆されている通常禁止されている特異性,「複素特異性」によるアプローチが研究計画の主要な部分であった.これまでの成果により,「閉じ込めの手がかりとしての複素特異性」についてある程度明らかになった一方,このアプローチの限界も見えてきた.また,本研究計画は理論のトポロジカルな性質との関係も検討することも含んでいるため,その方向性に沿った新しい非摂動的手法と組み合わせることが非常に有意義であると考えられる.それを踏まえ,本年度は以下の通り研究を行った. (1) 閉じ込めのトイモデルにおける非可逆対称性とそれによる相構造への制限 トポロジカル項が入った,モノポールと電気的な物質両方を持つ4次元U(1)ゲージ理論の新しい対称性を議論した.この模型は,ある意味で閉じ込めのトイモデルであり,豊かな相構造が期待されている.この模型において,ある種の電磁双対性を用いて,ここ数年注目を集めている新しい対称性である非可逆対称性を構成した.さらに,この対称性とそのアノマリーによる可能な真空構造の制限について議論した. (2)Higgs相と閉じ込め相の連続性 基本表現のHiggs場について,閉じ込め相とHiggs相が繋がっていると広く信じられていて,この連続性を理解することは閉じ込めの理解において重要である.いくつかのゲージヒッグス系の相構造について,最近の対称性の視点から議論した.副産物として,QCD相図の低温高密度部分の核子超流動相とクォーク物質相は渦周りのAharonov-Bohm位相で区別されるという提案があったが,それでは区別できず繋がっている可能性が残されていることを示した.
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