研究課題/領域番号 |
20J20221
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川本 弘樹 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 放射線検出 / 積算型線量計 / ラジオフォトルミネッセンス / 銀添加リン酸塩ガラス |
研究実績の概要 |
ラジオフォトルミネッセンス(RPL)現象を動作原理とする積算型線量計は様々な分野で利用されており、当該線量計の素子である銀添加Na-Alリン酸塩ガラス(PG:Ag)におけるRPLの特性や発光中心(RPL中心)形成機構の探究がなされてきた。しかしながら、PG:AgにおけるRPLに係る未解明事象が残存しており、線量計材料の改良・開発の障壁となっている。本研究は、PG:AgにおけるRPLに係る未解明現象の解明を通じた新規線量計材料開発を目的としている。本年度は、未解明事象の解明を企図し、2種の実験を行った。 1)ビルドアップ現象の銀濃度依存性の解析 放射線照射後の時間経過や加熱によってRPL中心である2価の銀イオン(Ag^2+)及び2個の銀からなる1価のクラスター(Ag2^+)の形成が進行する現象であるビルドアップ現象は未解明なままである。そこで、ビルドアップ現象の解明を企図し、銀濃度が異なるPG:Agについて放射線照射直後から120分間の蛍光及び電子スピン共鳴(ESR)スペクトルの経時変化測定を行った。PG:Agにおいて、PO4四面体に捕獲された正孔と電子との再結合はほとんど起きていないことが分かった。また、Ag^2+形成、Ag2^+形成及び励起光によるAg2^+解離の反応の寄与が銀濃度に依って異なることが分かった。 2)RPL中心消滅機構の解析 高温での加熱によるRPL中心の消滅はRPL線量計の再利用性の起源であるものの、その機構に関する知見は少ない。そこで、RPL中心消滅機構の解析を企図し、放射線を照射したPG:Agについて熱蛍光グローカーブと、400-673 Kで加熱した後の蛍光及びESRスペクトルの測定を行った。350-400 KにおいてPO4四面体以外の正孔捕獲サイトに捕獲された正孔の一部がAg^2+形成に寄与し、残りの一部がAg2^+の電子と再結合していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、本年度はXAFS測定によるRPL中心形成機構の詳細な探究と、熱蛍光グローカーブと蛍光及びESRスペクトルに基づくRPL中心消滅機構の解析を目的としていた。RPL中心消滅機構については、計画通りにその知見を得ることが出来た。一方、XAFS測定については実施できなかった。しかしながら、放射線照射直後からの蛍光及びESRスペクトルの経時変化測定に基づいて、RPL中心形成機構の未解明事象であるビルドアップ現象の銀濃度依存性についての知見を得た。これらのことを勘案すると、おおむね順調に進展しているといえるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、市販品のPG:AgについてRPL中心消滅機構の知見を得た。今後は銀濃度や含有カチオンが異なる組成の銀添加リン酸塩ガラスについて、同様の測定を行うことで、RPL中心消滅の挙動のガラス組成依存性についての知見を得る。これにより、RPL中心の熱的な安定性の高い組成がわかり、耐熱性の高いRPL線量計素子開発のための知見が得られると期待される。 また、これまでに得られているRPL中心形成量の情報は全て相対的な値であり、初期状態からの増減についての情報しか得られていない。そこで、ESR測定によるスピン量算出によってRPL中心形成量の絶対値についての情報を得ることで、銀添加リン酸塩ガラスにおいてRPL中心形成に寄与しているAgイオンの量が分かる。この測定も、組成が異なる銀添加リン酸塩ガラスについて行い、RPL中心が形成されやすい組成を探究することで、RPL線量計の高感度化に繋がる知見が得られると期待される。
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