研究課題
酸化チタン(TiO2)と金クラスターの組み合わせは優れた光触媒活性を示し、有害物質の浄化や、水分解による水素エネルギー生成への応用が期待されている。本研究の目的は、酸化チタン表面上の金クラスターの電荷移動現象を原子スケールで解明することである。今年度の進捗として、酸素を暴露させたAu/TiO2表面の表面電位をケルビンプローブ力顕微鏡により測定した。Auクラスターの直径は約3nmである。その結果、Auクラスターの電荷状態を決定する要因として、酸素原子の全体的な被覆率だけでなく、酸素原子の局所的な吸着位置も重要であることが明らかになった。またAuクラスターの電子はTiO2表面近くに移動し、そのダイナミクスは金クラスターの大きさに強く依存することを明らかにした。本結果は、Auクラスターの電荷状態の理解に大きく貢献するものである。また触媒反応において重要な役割をもつ酸素原子とヒドロキシ基の電荷状態を原子スケールの空間分解能で測定した。その結果、吸着酸素原子は3つの電荷状態で存在でき、ヒドロキシ基は酸性と塩基性の2つの電荷状態で存在していることを明らかにした。酸素原子とヒドロキシ基は多くの触媒反応に関与する原子種であるので、その電荷状態を明らかにすることは、極めて重要である。次に重要な成果として、光照射による表面光起電力測定の分解能を向上させるために、交流電圧制御法ケルビンプローブ力顕微鏡という新たな計測手法を開発した。本手法では光起電力の空間分布を直接測定できるので、熱ドリフトの影響の除去が可能となり、空間分解能の向上に成功した。また本手法では、数百ナノ秒から数秒スケールの光起電力応答が測定可能となり、真空中・大気中・液中にも適用可能であることから、様々な環境での光起電力分布の測定に応用されることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、TiO2上のAuクラスターの電荷状態の測定を行い、十分な成果が得られた。次に、当初はAu/TiO2表面上におけるCOの電荷状態の測定を計画していたが、TiO2表面上の酸素原子とヒドロキシ基に関して予想を上回る発見があったので、酸素原子とヒドロキシ基の電荷状態の研究に注力するように計画を変更した。その結果、酸素原子は3つの電荷状態で存在でき、ヒドロキシ基は酸性と塩基性の二つの電荷状態で存在していることを明らかにした。また当初は計画していなかったが、触媒活性にとって重要であるバンド曲がり分布を測定するためには、光起電力測定の分解能を向上させることが重要であると判断し、新たな測定手法の開発に取り組んだ。その結果、交流電圧制御法ケルビンプローブ力顕微鏡という新たな測定手法の開発に成功した。本手法では、光起電力を直接測定することが可能であり、熱ドリフトの影響を除去できるので、分解能の向上が可能である。
引き続き、TiO2上のAuクラスターの電荷移動現象の解明を目的に研究を進めていく。我々が開発した交流電圧制御法ケルビンプローブ力顕微鏡により、これまでにない高い空間分解能で、Au/TiO2表面のバンド曲がり分布を測定することを計画している。また、交流電圧制御法ケルビンプローブ力顕微鏡により、表面光起電力だけでなく、試料表面の仕事関数分布や静電容量分布を同時に計測できるように改良を行う予定である。表面光起電力・仕事関数・静電容量の分布をナノメートルの空間分解能で同時に計測することで、光照射によるキャリアダイナミクスをより詳細に解明できると期待している。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
The Journal of Physical Chemistry C
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