研究課題/領域番号 |
20J20251
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
楠戸 宏城 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 動的濡れ現象 / 分子動力学法 / 接触線 / 熱流束 |
研究実績の概要 |
濡れ現象を取り扱う際,マクロスケールの平衡状態では,固体表面上における固気液三相の交線である接触線に対する固気・気液・固液の界面張力のつり合い式として,Youngの式が成立することが前提とされる.しかし,Youngの式は物理的・化学的に均一な固体壁面上の平衡状態の接触線に対するつり合いを記述したものであり,ナノスケールにおいて厳密に成立するかは定かではない.また,接触線が動的に移動する際に現れる前進・後退というヒステリシスについては,未だ流体力学の未解明問題のひとつであり,動的に移動する接触線に対する各界面張力のつり合い関係を詳細に議論した研究例は少ない.そこで本研究では,濡れ現象のうち,特に,固気液三相の接触線が固体壁面に対して定常的に移動する際の,接触線を含む検査体積に対する運動量保存則・エネルギー保存則に基づいて各種つり合い関係を整理することを目的として,接触線近傍の詳細な流れ場・密度・応力・熱流束の分布に関する分子動力学解析を行った.その際得られた温度分布より,バルク部では粘性による発熱により温度が上昇し,さらに前進・後退接触線では各々温度が上昇・下降することがわかった.エネルギー保存則に基づいた解析により,その発熱量の定量化が可能となり,動的接触線を除く液体部では主に粘性発熱の影響が,動的接触線近傍では主に,流線に沿って界面が変化することによって前進・後退接触線で各々発熱・吸熱することがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で取り扱う動的接触線近傍での熱流の解析を行うためには,エネルギー保存則に基づくかたちで,熱流束の算出を行う必要がある.まず,昨年度までの研究成果により,まず,定常非平衡系における密度・速度・応力の計算が可能となり,これを拡張するかたちで流体の内部エネルギーの分布等が計算可能となり,本年度取り扱った熱流束の計算が可能となった.それによって,動的接触線を有する準二次元系の流体内部の熱流束の二次元分布が算出でき,動的濡れ過程における接触線近傍で生じる発熱や吸熱の定量化が可能となった. 以上により,本年度の研究により,動的濡れ現象のヒステリシスを熱的観点から解き明かすための突破口を開けたため,本研究はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で,動的接触線近傍で生じる熱流の詳細を解析することができたが,単純流体を用いた解析に留まり,現実世界への知見の還元を考える際には水といった実在液体を用いた解析を行うことが望ましい.そこで次年度は,まず,水を用いた解析に着手し,内部の温度分布等を用いて計算系内部で生じる発熱・吸熱現象を確認し,そのメカニズムをエネルギーの観点から解き明かす.その際,計算負荷の問題から,パッケージソフトのLAMMPSを使用する予定であるが,可能であれば流れ場を有する系内部の応力分布や熱流束分布の計算を実装したい.
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