光子の周波数を用いることで実装可能になるような、大規模な量子計算の実現に向けた研究として、今年度は主に3つの研究課題に取り組んだ。 (1) 光子を用いた量子ビットとして、時間周波数領域でのグリッド状態を生成するために光学系を作成した。単共鳴PPLN導波路共振器という素子に、2つの周波数ピークを持つポンプ光を入射させることでパラメトリック下方変換を生じさせ、時間周波数領域でのグリッド状態を生成する予定である。現時点で、パラメトリック下方変換を行うための単共鳴PPLN導波路共振器を含む光学系が完成している。また、必要となるポンプ光を生成するための光学系が一部完成している。 (2) 大きな線形光学回路を用いた量子計算に関する理論研究を行った。一般に、線形光学回路に光子が入射した時の出力を予測することは、計算量的に難しいことが知られており、量子計算に有用な線形光学回路を発見的に構成することは困難であると考えられる。そのため、まずは線形光学回路の出力を部分的に計算することができる新しい定式化を導出した。現時点でこの定式化の適用範囲がおおよそ明らかになっている。この定式化によって、これまで知られていた線形光学回路による量子操作が整理されるだけでなく、新しい有用な線形光学回路の提案につながることが期待できる。 (3) 全光量子中継器プロトコルの改良に関する理論研究を行った。全光量子中継器は、長距離の量子通信に必要となる中継器として、物質量子メモリの代わりに光子の多体エンタングル状態を用いる手法である。高いエラー耐性のあるプロトコルや、パーコレーションに基づいたプロトコルなどを考案しており、今後詳細な計算を行う予定である。 加えて、現在周波数多重化された偏光エンタングル光子対の生成に関する論文を投稿中である。
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