研究課題/領域番号 |
20J20287
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
當波 孝凱 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 一重項分裂 / シングレットフィッション / 外部静電場印加 / 量子ダイナミクス |
研究実績の概要 |
一重項分裂(SF)は、光照射により生成した1つの一重項励起子が、2つの三重項励起子に分裂するという現象である。高効率なSFの発現に向け、これまで化学修飾によるSF分子の設計が理論・実験の両面から盛んに行われてきたが、申請者はSFの物理的制御に着目し、静電場印加による高効率なSFの発現機構の可能性を予測した。そこで、本研究では、精緻な量子化学計算および量子ダイナミクスの手法を用いて、SFへの静電場印加効果を理論的に解明し、単分子レベルから分子集合系での挙動を含めた新しいSF制御指針の構築および静電場駆動型SFという新奇なSFを発現する物質の設計を行うことを目標とする。 本年度は、シングレットフィッション(SF)への外部静電場印加効果のメカニズム解明に関して研究を遂行した。特に、静電場印加が二量体モデル(SFの最小単位)におけるSF速度や三重項収率に与える影響の解明を目指した。SFを支配する因子である励起エネルギーや電子カップリングを静電場下で計算したところ、SFの仮想遷移状態である電荷移動(CT)状態の励起エネルギーが大きく増減することが判明し、SFダイナミクスが大きく変化する可能性が示唆された。実際に、得られた結果を用いて量子ダイナミクスシミュレーションを行ったところ、二量体の面間方向に静電場を印加した場合に、SF速度が増大することが見出された。相対緩和因子や摂動論を用いた解析により、静電場下でSFが加速した原因が明らかになり、外部静電場印加がSF制御法として有効である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SFを支配する因子やSFダイナミクスに対する静電場印加効果について二量体レベルで解明することができたためである。本年度得られた成果は、来年度行う多量体モデルへ展開するのに有用な知見であると期待される。また、これらの成果を学術雑誌に論文として投稿することができたため、順調に研究が進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
単分子から分子集合系まで含めた静電場によるSF制御指針を構築するため、本年度に検討した二量体モデルを多量体モデルへと拡張し、多量体モデルでのSFダイナミクスに対する静電場印加効果を量子化学計算と量子マスター方程式に基づくSFダイナミクスシミュレーションにより解明する予定である。また、励起エネルギーと電子カップリングのほかに、振電相互作用がSFに大きな影響を与えることが先行研究から明らかになっている。本年度の検討でCT状態の励起エネルギーが大きく変化したことから、原子核振動によるCT状態のエネルギー変化に関係する振電相互作用パラメータにも静電場が大きな影響を与える可能性が示唆された。そこで、結晶構造から抽出した多量体モデルを用いて静電場が振電相互作用に与える影響についても検討を行う。さらに、静電場印加効果と同様な効果が得られると期待されるドナーアクセプター部位を含む系へと展開し、物理的制御と化学的制御の共通点・相違点をまとめ、理論研究者・実験研究者双方に理解しやすいSF制御指針の構築や新規SF物質の設計を行う。
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