研究課題/領域番号 |
20J20292
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井嶋 大輔 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 粉体 / スケーリング / ダイラタンシー / 塑性流動 / 摩擦 |
研究実績の概要 |
砂、泡、コロイドといったジャムドマターをゴムといった外場に対して広く線形応答する物質(線形弾性体)に混ぜた混合系は複雑な力学特性(レオロジー)を示し、エネルギーに対して高い散逸性が生じる。これは免震ゴムや吸音材等で応用されており、生活面においても混合系のレオロジーと高散逸性に対する理解は重要となる。しかし、混合系におけるレオロジー等の理解は進んでおらず、どの程度ジャムドマター(減衰材)を配合すると最適な減衰ゴムが得られるかといった問題は経験的に行われている。 そこで、この混合系のレオロジーと高散逸性を混合系を構成する粒子レベルからの基礎方程式を用いて数値的・理論的に明らかにすることが本研究の目的である。 本研究の実施状況は次のようになっている。ジャムドマターである粉体のみで構成された系のレオロジーを理解する必要があるため、振動剪断流下における摩擦のある粉体系のレオロジーの研究を行なってきた。その結果、剛性率と粘性率にそれぞれ対応する貯蓄弾性率と損失弾性率が閉じ込め圧力と歪み振幅を用いたスケーリング則が粉体粒子間に摩擦を考慮した場合に存在することが明らかとなった。また、歪み振幅の増加に伴い密度減少(ダイラタンシー)が生じることが明らかとなり、ダイラタンシーが生じる歪みより小さな歪み領域で密度が増加する現象(コンパクション)が観測された。コンパクションの発生に関しては閉じ込め圧力、粒子間摩擦の大きさ、初期配置の用意方法等に依存することが明らかとなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
定圧振動剪断流下における粉体系の(1)スケーリング則と(2)密度低下(ダイラタンシー)の研究を主に行なってきた。その結果、(1)では貯蓄弾性率と損失弾性率に対し、与える振動振幅と圧力を用いたスケーリング則が摩擦のない粉体系では存在しないが、摩擦のある粉体系において存在することを明らかにした。この結果はPhys. Rev. Eに掲載された。(2)では歪み振幅の増加に伴いダイラタンシーが生じることを明らかにした他、ダイラタンシーが生じるよりも小さな歪み振幅において密度増加(コンパクション)が生じることを確認した。ここでコンパクションの発生に関しては粒子間摩擦係数、閉じ込め圧力が重要となることを明らかにした。この結果を論文にし投稿した後、査読を得て国際会議Powders&Grains2021に収録が決定している。この他にも準静的剪断下における粉体系の安定性解析を行なっており、摩擦を考慮することで摩擦のない系とは異なる振る舞いが確認されている。以上の結果を踏まえ計画は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、(1)定圧振動剪断系における密度変化と降伏転移、また、降伏転移以前に生じる剛性率の低下との関係の明確化と(2)準静的剪断過程における系の安定性解析を行っている。(1)については体積膨張による密度変化と粒子軌道の可逆・不可逆性は関係していると考えられ、軌道の可逆・不可逆性を特徴付ける平均二乗変位を用いて解析を行っている。また、粒子軌道が可逆であるにも関わらず系の剛性が低下する現象についても研究を行っている。(2)では粉体系が不安定化しストレス雪崩が生じる現象を明確にするために、系に対して不連続に歪みを加え、粘性散逸により安定化した後の粒子配置の変化を追うことで研究を行っている。その際に系の安定性を捉えるために系の構造の情報を持つ密度行列の固有値・固有関数を用いて解析を行なっている。
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