研究課題/領域番号 |
20J20319
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
柴田 ゆき野 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
キーワード | 新規音響解析手法の構築 |
研究実績の概要 |
異種間ハイブリッド個体が両親種より多くの音素を習得する雑種強勢現象に着目し、これらハイブリッド個体の音素学習能力を支える神経分子基盤解明を目指す。作業仮説として、(1)ハイブリッド歌神経核サイズ・神経細胞数増加による機能向上、(2)個々の神経細胞の発火特性多様化がもたらす発声ゆらぎ増大による音素学習促進の2つを設定し、当該年度は(1)の検証として歌神経核特異的遺伝子マーカーを用いた in situ hybridization 、及び(2)の行動レベルの検証として 、 幼鳥の発声パターンにおける音響ゆらぎ定量・比較を実施した。(1)検証では、歌神経核サイズ・神経細胞数に親種とF1ハイブリッド間で有意差はみられなかった。(2)検証では、共同研究で発声スペクトログラムの機械学習によって音素の類似度を評価する解析プログラムを構築した。画像ベースの比較・評価が可能となったことで、音響特性が不安定で解析困難な幼鳥の発声における種差・個体差の可視化および定量化に成功した。この解析によりF1ハイブリッドが2種の親種のもつ発声揺らぎの中間程度の発声揺らぎを持つことがわかってきた。以上より、F1ハイブリッド個体における音素学習能力向上が歌神経核神経細胞数の増加や幼鳥時の音響特性の揺らぎ幅増大に起因する可能性は低く、歌神経核における親種-ハイブリッド間のトランスクリプトーム差異が神経細胞の発火パターン等の機能特性を変化させ、音素学習能力の違いに関与している可能性が示唆された。この検証にあたり、歌神経核のシングルセルRNA-seqを実施した。この際に新規に確立した凍結脳からのサンプリング手法により、生体だけでなく過去に保存したサンプルも利用可能にした。加えて、複数個体が混ざったライブラリのシーケンスデータから各個体を同定する解析法を導入し、同コストでより多くの個体データが得られるようになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画の音響解析・歌学習神経回路における神経解剖学的比較実験・単一神経細胞レベルのトランスクリプトーム解析(single nuclei RNA-seq)を実施し、特にsingle nuclei RNA-seqにおいては凍結保存脳からのサンプリング手法確立およびSNP情報に基づいて同一ライブラリ内の複数個体を分離する解析手法を導入したことにより当初計画の各親種・ハイブリッド1個体ずつという予定を大きく上回り、各親種・ハイブリッド各群3個体以上のシングルセルRNAseqデータを確保できた。
|
今後の研究の推進方策 |
音素音響特性およびそれらの配列パターン制御を担う歌神経核HVC,RAにおける単一神経細胞レベルのトランスクリプトーム解析を行い、ハイブリッド個体の音素学習能力向上を可能とする遺伝子群の探索を行う。具体的には2つの可能性を視野に入れて解析を進める:(1)ハイブリッド個体において両親種と有意に発現レベルが異なる遺伝子群により神経細胞機能特性が変化し、音素学習能力向上につながった。(2)ハイブリッドのHVC、RAにおいて神経細胞機能特性に関わる遺伝子群の発現レベルの細胞間ばらつきが増大したことにより、多様な発火特性をもつ神経細胞を獲得し、多様な音素音響特性を習得可能となった。
|