研究実績の概要 |
ソングバード異種間ハイブリッド個体の音声学習において、ハイブリッド個体が両親種の個体に比べてより多くの音素を習得する雑種強勢現象に着目し、これらハイブリッド個体の音素学習能力を支える神経分子基盤解明を目指した。これまでの実験結果から、歌神経核サイズには親種-F1ハイブリッド間で有意差がないことが示され、さらに歌神経核内の単一神経細胞レベルのトランスクリプトーム解析では特定の細胞タイプでハイブリッドと親種間のトランスクリプトームパターンの違いが顕著であることが明らかになってきた。これを受け、令和3年度でさらに検証すべき事項として、(1)親種キンカチョウ、サクラスズメとそれらのF1ハイブリッド群における歌神経核内の興奮性・抑制性ニューロン構成比率の比較(2)歌神経核における単一神経細胞レベルトランスクリプトームの詳細解析に取り組んだ。(1)については最終的な集計作業中だが、親種-F1ハイブリッド間の興奮性/抑制性ニューロン比率に現時点で顕著な差は見られていない。(2)については、歌生成を制御する回路を構成するHVC,RAの興奮性投射ニューロンにおいて、F1ハイブリッドで非相加的発現を示す遺伝子群(non-additive genes)が集積していることが明らかになった。以上の結果より、F1ハイブリッド個体においては歌行動制御を担う神経細胞群を中心とした遺伝子の非相加的発現パターンの新規な組み合わせが生じた結果、潜在的にいずれの親種とも異なる神経活動パターンを示しうる神経細胞群が生じ、多様な歌音響特性に対する習得能を獲得したことが示唆された。
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