研究課題/領域番号 |
20J20385
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
瀧川 大地 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | キタエフスピン液体 / スピンゼーベック効果 |
研究実績の概要 |
本課題ではキタエフ候補物質内に存在する非キタエフ相互作用が実現する、新奇な量子相の提案と発現する新規物性の予言、およびマヨラナ粒子の新規熱輸送現象の開拓を目標に研究に取り組んだ。α-RuCl3における量子熱ホール効果の実験はサンプル依存性が大きく、フォノンなどの散乱の影響を受けやすいため、統一的合意がされていない問題がある。そこで決定的なマヨラナの存在証拠を掴むため、遍歴マヨラナと局在マヨラナの混合によって生じる端におけるキタエフ模型のスピンゼーベック効果の提案を行った。線形応答の手法を用いて解析を行いスピン伝導率におけるDrudeWeightが普遍的な温度のスケーリングを示すことを発見した。スピンゼーベック効果は外部から温度勾配を設けることによってスピン流が流れる現象である。本研究にて系の境界に無散逸のスピン流が流れることを発見した。量子熱ホール効果のように絶対値の観測ではなく、温度に対するスケーリングの観測なのでフォノンなど他の自由度からの擾乱を受けても特徴的な冪は変わらないと期待でき、より安定かつ一般的なマヨラナフェルミオンの存在を証明する実験になると期待できる。また、量子スピン液体の応用は今まで非常に限られていたが、今回発見されたカイラルエッジ状態に由来する後方散乱のない弾道的なスピン伝導は量子スピン液体の基礎研究をスピントロニクスへの直接的な応用へと切り開く。秩序化した伝導体や磁性体を用いた従来のスピントロニクスと異なり、キタエフスピン液体状態はナノスケールまで安定に存在し散逸のないスピン流生成を可能にする。さらにこの応答は従来の半導体を用いた応答よりはるかに巨大な応答であることが分かっている。これらの成果についての 論文を投稿し Physical Review Bから出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題ではキタエフ候補物質内に存在する非キタエフ相互作用が実現する、新奇な量子相の提案と発現する新規物性の予言、およびマヨラナ粒子の新規熱輸送現象の開拓を目標に研究に取り組んでいるがおおむね順調である。 遍歴マヨラナと局在マヨラナの混合によって生じる端におけるキタエフ模型のスピンゼーベック効果の提案を行い、より安定かつ一般的なマヨラナフェルミオンの存在を証明する実験提案を行った。また、いままで応用が限られていた量子スピン液体の基礎研究をスピントロニクスの分野へ応用し、α-RuCl3 を実際のデバイスとして活用できる可能性を示した。これらの成果についての論文を投稿しPhysical Review Bから出版されている。また反転対称性を持たない立方晶系であるハイパーオクタゴン格子にて非相反熱伝導という新奇輸送現象の関する研究の準備が以下の項目で示すようにできている。以上の理由からおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的はマヨラナ粒子における新奇輸送現象の開拓である。これまでの先行研究にてマヨラナバンドを磁場印加で制御し、対称性を破りマヨラナフェルミ面が出現することによって熱輸送現象は影響を受けることが分かっている。そこでハイパーオクタゴン格子上のキタエフ模型上に熱伝導度を計算して磁場応答を調べる。ハイパーオクタゴン格子は反転対称性を持たない立方晶系格子であり、基底状態にギャップレスなスピン液体を持ち、2次元のマヨラナフェルミ面を持つ特徴がある。マヨラナフェルミ面は磁場印加がないと不安定になるが無限小の磁場で安定化するので本研究には問題がない。E. Orignacらによる文献中のマヨラナの熱伝導におけるボルツマン理論の主張を信用すると、マヨラナ系の熱伝導は以下のように求めることができる。まず対応するスピンレスフェルミオン系においてボルツマン理論などを用い熱伝導の計算を行う。次に求めた熱伝導度を1/2に対応させる。 本研究では、ハイパーオクタゴン格子上の磁場印加中のキタエフ模型を対応するスピンレスフェルミオンにマップし、そこで縦熱伝導を計算すれば、1/2をするだけで正しい結果が得られると考えられる。ゆえに、1/2の要素を除けば従来のボルツマン理論を用いて非相反熱伝導を扱う通常の電子系での研究と同様に、ハイパーオクタゴン格子のキタエフ模型でもボルツマン理論で非線形効果が扱えると期待される。本研究によって、マヨラナフェルミ面が存在、磁性絶縁体であるにもかかわらず巨大な非相反熱伝導が出現することが期待できる。具体的な方策としてはボルツマン方程式を用いて2次の電流応答を計算した論文のアナロジーによって熱伝導率の計算を行う。論文ではボルツマン方程式を外場に関して逐次展開し計算を行っているが、本研究では外場を温度勾配と見なし同様にして計算を行う。
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