研究課題
太平洋側北極海における海氷変動といった環境変化に対する珪藻類群集への影響を明らかにすると共に、珪藻類休眠期細胞の機能について知見を深めることを目指し、本年度は特に、(1)堆積物中における休眠期細胞群集分布と海氷動態との関係を明らかにする、(2)堆積物試料を用いて室内培養実験を行い、珪藻類休眠期細胞の発芽が水柱の基礎生産へ与える影響を明らかにする、(3)秋季の太平洋側北極海の水柱における珪藻類休眠期細胞の分布を明らかにする、ことをテーマとして研究に取り組んだ。(1)では、堆積物中における珪藻類の休眠期細胞群集の分布要因について、衛星から得た海氷密接度や基礎生産量のデータと合わせて解析を行った。本解析により、当該海域の珪藻類休眠期細胞群集の分布は、海氷存在と日長の関係や、海氷の後退時期に左右されることが明らかとなった。本研究の結果を国際学術雑誌へ投稿した。(2)に関して、海洋地球研究船「みらい」の北極航海の期間中、太平洋側北極海の陸棚域において堆積物試料の採取を行った。その後、陸上の実験室において堆積物試料を用いた室内培養実験の予備実験を行った。(3)に関して、上述の北極航海において海水試料の採集を行った。採集した項目は、植物プランクトン色素、珪藻類(顕微鏡観察用)、DNA、RNAであり、船上では、クロロフィル可変蛍光光度計を用いて、現場の植物プランクトン群集の光合成活性も測定した。色素試料は超高速液体クロマトグラフ(UHPLC)を用いて分析し、顕微鏡観察は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて行った。色素の分析結果からは、秋季の太平洋側北極海の水柱ではクロロフィルa濃度が相対的に低かったが、珪藻類が植物プランクトン群集の主要な構成グループであったことが示唆された。また、SEMでの観察結果からは、珪藻類の群集内では休眠期細胞の割合が比較的高い可能性が明らかになりつつある。
2: おおむね順調に進展している
研究計画で予定していた通り、JAMSTEC海洋地球研究船「みらい」で行われた北極航海へ参加し、太平洋北極海の堆積物および海水試料を十分採取した。また、この航海で採取した堆積物を用いて室内培養実験へ向けた予備実験を行うと共に、海水試料の分析等を計画的に進めた。さらに、太平洋側北極海陸棚域における珪藻類休眠期細胞群集について、衛星データを用いて分布要因の解明に努めた。この研究結果を国際学術雑誌へ投稿した。これらの進捗状況より、本研究はほぼ計画通りに遂行されており、おおむね順調に進展していると判断した。
本年度の北極航海(JAMSTEC海洋地球研究船「みらい」、航海番号MR20-05C)で得た堆積物を用いて、室内培養実験を行い、(1)珪藻類休眠期細胞の発芽が基礎生産に与える影響を評価する、(2)環境変化が著しい北極における珪藻類休眠期細胞の生残について評価する、ことで珪藻類休眠期細胞の海洋における役割と海洋環境変化に対する応答を明らかにすることを目指す。また、同航海において採集した海水サンプルについては、SEMでの珪藻類の観察を進めると共に、光合成炭素固定酵素RubisCOの大サブユニットをコードするrbcL遺伝子等を標的としたDNAとRNAの分析を行い、珪藻類の群集組成と炭素固定活性を評価する。これらと過去の知見を合わせることで、休眠期細胞を含む珪藻類群集の動態を総合的に解析する予定である。加えて、得られた成果を国際会議や国内学会で発表する予定である。
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Polar Science
巻: 27 ページ: 100555~100555
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Deep Sea Research Part II: Topical Studies in Oceanography
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