研究課題
本研究では、これまでフグ毒を保有しないとされる数種の魚種からフグ毒を検出し、それら魚種における毒化機構の一端を明らかにすることで、水産食品のより安心安全な管理に向けた知見の蓄積を目指した。加えて、所属研究室のこれまでの成果により、様々なフグ毒保有生物の毒化に関与していることが明らかにされたオオツノヒラムシに着目し、性成熟に伴うTTXおよびその類縁化合物の濃度および局在がオオツノヒラムシ体内でどのように変化しているかを調べた。日本列島の南方海域に生息するこれまでフグ毒を保有しないとされる魚種の稚魚を対象にLC-MS/MSを用いてフグ毒の有無を調べた。また、それら稚魚の毒化にオオツノヒラムシが関与することを明らかにするため、稚魚の消化管内容物を対象にオオツノヒラムシのCOI遺伝子を特異的に検出可能な種特異的PCRに供した。その結果、全ての個体からフグ毒は検出されなかった。種特異的PCRも同様に、全ての個体からオオツノヒラムシの遺伝子と一致する配列は検出されなかった。次に、オオツノヒラムシの毒化機構の一端を明らかにするため、性成熟に伴うTTXの濃度および局在がオオツノヒラムシ体内でどのように変化しているかを調べた。その結果、TTXは、幼体期に咽頭で高い値を示し、交配期には、幼体期と同様に咽頭でも高く、体の前方および後方に位置する組織でも比較的高い濃度を示した。産卵期には、卵母細胞が最も高い濃度を示した。この結果から、オオツノヒラムシの体内では、性成熟に伴ってTTXの濃度および局在が変化していることが明らかとなった。この結果は、オオツノヒラムシは体内にTTXの輸送に関わるタンパク質を保有している可能性を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルスによる規制も緩和され、渡航が可能となった。そのため、昨年度は実施することができなかった沖縄県沿岸での試料採取を行うことができた。また、様々なフグ毒保有生物の毒化に関与しているオオツノヒラムシの体内におけるTTXの局在を明らかにした。この結果は、オオツノヒラムシにおけるTTXの役割を理解するだけでなく、オオツノヒラムシにおけるTTXの獲得経路の解明に向けた重要な知見になると考えている。
本年度はこれまでフグ毒を保有しないとされる魚種からフグ毒およびオオツノヒラムシの遺伝子は検出されなかった。このことから、オオツノヒラムシの資源量が低く毒化していなかった可能性が考えられる。今後は引き続き、様々な魚種の稚魚を対象にフグ毒の検出を試みる。さらに消化管内容物に加えて、海水中からもオオツノヒラムシの遺伝子の検出を試みる予定である。また、フグ毒の主要な供給源の一つと考えられるオオツノヒラムシの生態についても研究を進めていく予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
Toxins
巻: 14 ページ: 150
10.3390/toxins14020150
Mitochondrial DNA B
巻: 6 ページ: 2852-2855
10.1080/23802359.2021.1971118
Aquatic Toxicology
巻: 237 ページ: 105908
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