研究課題/領域番号 |
20J20435
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 泰爾 北海道大学, 大学院工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 摩擦抵抗低減 / 乱流境界層 / 気液二相流 / ボイド波 |
研究実績の概要 |
本年度は,乱流境界層への周期的に空気流量を変動させた気泡注入(間欠的気泡注入)による抵抗低減技術の開発を目的として,①流速5-7m/sの高速チャネル乱流における抵抗低減効果の調査,②船長36mの平底模型船を用いた抵抗低減効果の調査,③水平チャネル乱流に対する追跡計測システム開発の3つの研究を実施した. 高速チャネル乱流を用いた実験では,チャネルに取り付けた応力計により壁面に働くせん断応力を直接計測し,抵抗低減効果を最大化させる間欠的気泡注入の周波数を探索した.従来の一定流量での気泡注入と比較して,間欠的注入により壁面摩擦抵抗低減率を向上できることを,実船に近い高速流において実証した. 平底模型船を用いた実験では,実船環境に迫るスケールにおけるボイド波の活用による摩擦抵抗低減効果を調査した.船全体にかかる抗力の計測結果により,0.5Hzの周波数で注入空気流量を周期変動させたときに最大の抵抗低減効果を得られることを示した.36mの模型船底面における局所壁面せん断応力の流れ方向分布を計測し,このデータを基に数十メートル以上の長流下距離に適用可能な抵抗低減効果の下流遷移モデルを提案した. 水平チャネル乱流に対する計測技術の開発においては,電動レールに計測機器を搭載する追跡計測システムを構築した.このシステムの利用により,流速1m/s程度で移流する水平チャネル内の気液二相乱流を6mの距離でラグランジュ的に計測することが可能になった.この技術はボイド波の下流伝播メカニズムを解明するための中核技術となる. 以上の内容を含めて昨年度,国際学会誌Ocean Engineeringでの発表2件(掲載済み),国内学会誌日本機械学会論文集での発表1件(掲載済み),国際学会発表3件(本人口頭発表1件,ポスター発表1件,共著1件),国内学会発表6件(本人口頭発表3件,共著3件)を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,船長4mの平底模型船を用いた気泡分布の移流発達の研究,流速5-7m/sの高速チャネル乱流における抵抗低減効果の研究,船長36mの平底模型船を用いた抵抗低減効果の研究を実施してきた.いずれ研究においても気液二相乱流境界層における気泡分布の光学可視化と壁面せん断応力の計測を実施し,ボイド波が生み出す抵抗低減効果とボイド波の移流発達過程を調査した.これらを通じて,ボイド波を利用する摩擦抵抗低減技術について,局所抵抗低減促進効果および抵抗低減の下流持続性を高める効果を発見した.この2つの効果が実船と同等規模の流速・流下距離の環境において得られることを,長さ36mの模型船を用いた実験によって実証済みである.本研究課題における通算で,国内学会誌日本機械学会論文集で1件,国際学会誌Ocean Engineeringで3件の論文を発表した.これらの論文においては,ボイド波の移流発達モデルの提案,抵抗低減効果の下流遷移モデルの提案,抵抗低減効果を最大化するボイド波の最適周波数の予測方法の議論を行っており,ボイド波による抵抗低減技術の将来的な実用設計に利用可能な知見を提供している. 本研究の目的達成には,気液二相乱流におけるボイド波の移流発達を支配する気相と液相の相互干渉現象の解明が重要である.この調査のため,気泡分布と液相速度を光学可視化により同時に計測する.光学可視化に適した長さ10mのアクリル製水平チャネル実験設備と電動レールを使用した追跡計測システムを構築し,この計測システムの校正と気液二相水平チャネル乱流に対する適用結果を国内学会において発表した. ボイド波を利用する摩擦抵抗低減技術に関して世界に向けた成果の発信を継続的に進められており,この技術の背景にある流体力学的機構を解明するための実験システムの開発が完了した.これにより,研究全体の進捗としてはおおむね順調と判断する.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では,複数の実験において獲得した情報を用いて気液二相乱流の流動状態と壁面摩擦の関係を解明する.これまでの研究により,平板乱流境界層および水平チャネル乱流において,特定の周波数のボイド波を生成することで時間平均の抵抗低減率が増加することを示した.このような抵抗低減促進が引き起こされるメカニズムを調査する. 長さ36mの模型船に5台の高速度カメラと23個の局所せん断応力系を搭載した実験により,平板乱流境界層におけるデータを取得済みである.気泡分布とせん断応力の情報を用いてボイド波移流発達の特徴を評価する.流れ方向に複数点で行った計測結果に基づき,局所的な流れ場の議論だけでなく,長流下距離でのボイド波伝播に関する知見を提供する. ボイド波の移流発達とこれによる摩擦抵抗低減は,気液間の複雑な相互干渉が支配する現象である.電動レールに複数の光学可視化機材を搭載した計測により,移流する気泡群の運動と気泡周囲の液相速度分布を定量的に評価し,気相と液相のtwo-wayな干渉を詳らかにする. 本研究のこれまでの成果から,ボイド波による抵抗低減促進を気液二相乱流特有の時間スケールが支配しているという知見を獲得した.乱流境界層中の速度分布を高空間解像度で取得するPTV(粒子追跡法)を行い,気泡の通過による乱流の抑制とその後に生じる再発達現象の時定数を統計的な調査により特定する. 複数の結果を総合した知見として,気液二相乱流境界層におけるボイド波の発達過程を波動伝播の方程式として表現する.これまでに獲得した壁面せん断応力の計測実験の結果を取り入れ,気相・液相の運動と抵抗低減効果を結びつけることを可能にする経験式として提案する.この成果は,ボイド波を活用した抵抗低減技術の最適化のための具体的な設計指針を示す.
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