研究課題/領域番号 |
20J20443
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
荒井 真也 大阪大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 制御性T細胞 / エピゲノム / 免疫寛容 / 腸管 |
研究実績の概要 |
令和3年度は,既に樹立しているpTreg発生の実験系(遺伝子改変マウスと改変給餌; DO11.10/Rag2KO/Foxp3-eGFPマウスおよび卵白粉末添加飼料)を発展させ,より生理学的条件に近いpTreg発生の解析を目的とした。本実験系に用いているマウスは遺伝子変異により胸腺由来TregおよびB細胞を欠くため,上記マウスと野生型マウスの骨髄キメラマウスを作製し,同様に改変給餌を実施した。骨髄移入後4週間後にマウスを解析したところ,抗原非存在下すなわち通常給餌条件下ではpTreg発生は見られない一方で,抗原存在下では末梢組織においてpTregの存在が認められた。このことから,野生型由来nTregがpTreg発生も含めたT細胞の非特異的活性化を抑制しており,抗原特異的刺激でのみpTreg発生が生じることが示唆された。本実験で発生したpTregに関しても同様に,DNAのメチル化状態,ヒストン修飾およびオープンクロマチン状態をバイサルファイト法,ChIP-seqおよびATAC-seqにより調べると,胸腺由来Treg同様のDNA脱メチル化状態,ヒストン活性化状態およびオープンクロマチンを有していることが見出された。すなわち,生理学的条件下において抗原特異的に発生したpTregはエピゲノムに基づく安定なTreg細胞系譜であることが明らかとなった。また,このpTregの遺伝子発現プロファイルをmRNA-seqを用いて調べたところ,nTreg同様の遺伝子発現プロファイルに加え,いくつかのpTreg特異的遺伝子発現も示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子改変マウスと改変給餌の組み合わせというユニークな実験系をベースに,生理学的条件下に近い実験系を構築し,以下3点を明らかにした。 1) pTreg発生には抗原特異的刺激が必要であること,加えて大部分がtTregで構成されるnTregによってpTreg発生も含めた抗原特異的T細胞の活性化が制御されている可能性を明らかにした。 2) 骨髄キメラマウスに近い状況で発生したpTregも,通常マウスのnTregおよびpTreg同様にTreg特異的エピゲノムを成立させていることを明らかにした。また,pTregのエピゲノム成立においては遅延時間が存在する可能性が示唆された。 3) 本実験において発生したpTregはTreg様の遺伝子発現プロファイルを有することを明らかにした。また詳細な検討が必要ではあるが,pTreg特異的な遺伝子発現も一部認められた。
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今後の研究の推進方策 |
本実験系から,nTregの存在がpTreg発生においては拮抗的に寄与しうる可能性が示唆されたものの,発生したpTregは安定な細胞系譜となることが示された。この実験モデルではnTregとB細胞存在下におけるpTreg発生を見ることができる,優れた系であるもののレシピエントの骨髄細胞除去のための放射線照射が必要であり,マウスの長期間に渡る維持が難しい点もある。胸腺非依存的なpTregの発生やnTregとの交互作用をよりシンプルな実験系で証明するために次年度は,胸腺欠損マウスであるヌードマウスと本遺伝子改変マウス由来のナイーブT細胞を使用した実験系(1)と遺伝子改変マウスに野生型nTregを移入した実験系(2)を用いて,より解決課題に直線的なアプローチを選択することとした。実験系(1)ではナイーブT細胞をpTreg前駆細胞として選択することで,pTreg分化におけるfate decisionがどの段階で起こるのかについての知見を得ることができる。また,実験系(2)からはpTreg発生へのnTregの干渉の強さ,干渉から逃避するための抗原刺激の閾値なども検証可能であると考える。
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