研究実績の概要 |
「一つひとつの瞬間にありのままの注意を向ける」(Kabat-Zinn, 1990)ことを基本とするマインドフルネスは,年齢不相応な不注意・多動の特徴を持つ神経発達障害である,注意欠如/多動性障害(ADHD)の特徴への効果があることがわかっている(e. g., Jha et al., 2007)。しかし,ADHDの不注意や多動の特性は,じっとしたまま呼吸や身体に注意を向けるマインドフルネス瞑想への取り組みを阻害する可能性がある。そこで,マインドフルネスで重要なファクターである姿勢に注目し,ADHDの人にも,そうでない人にも取り組みやすいマインドフルネスとは何かを探ることを目的とした。 2020年度分の研究では,まずマインドフルネスの取り組みにくさ・取り組みやすさを測定する尺度を開発するため,3つの調査をおこなった。作成された尺度を用いて,身体の各部位に注意を向けるマインドフルネス瞑想であるボディスキャンや,座って呼吸等に注意を向ける静座瞑想を行いやすい姿勢とは何かを検討する実験を1つずつ行った。実験の結果,ボディスキャンはADHDの人にとって仰向けでは行いやすく,猫背に近い姿勢では行いにくく感じることが分かった。また,静座瞑想は多動傾向の人は,背筋を伸ばした姿勢で行いにくく感じることが分かった。 今回の研究の意義として,尺度開発については,これまでマインドフルネスの行いやすさ・行いにくさを測定する尺度を検討した研究は見当たらなかったため,今後,マインドフルネスエクササイズの評価や各個人の取り組みの測定に役立つ。また,姿勢に着目した実験については,ADHDの人が取り組みやすい姿勢を明らかにするとともに,従来の伝統的なマインドフルネス瞑想の姿勢と一部一致することを示し,その科学的根拠を示唆した。
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