今後の研究の推進方策 |
1年目で構築したVRを含む実験環境を主として,クロスモダルな注意に焦点を当てた計画を進行中である。多感覚統合の空間法則によれば,聴覚手がかりと視覚標的の同時呈示が知覚的処理を促進する。これは異なるモダリティ知覚が1つのイベントから生起するという連合を強化し,こうした事態においては注意選択や作業記憶課題における,標的検出,弁別,再認の反応時間や正答率が高くなることが知られている(e.g., Botta et al., 2013)。聴覚手がかりは視覚手がかりに比べて空間的解像度が低い。特に奥行方向の知覚は,実際の音源に対して過大・過小推定してしまう(Kolarik et al., 2016)。すなわち,知覚的な空間で一致する聴覚手がかり・視覚標的は,物理空間では一致しない。本研究では知覚的に一致(=物理的不一致)する聴覚の奥行手がかりが視覚探索に及ぼす影響について検討していく。 この計画はVRを用いた奥行き方向における音源定位課題と,視覚探索課題の二部構成で実施する。音源定位課題(n=20)において,被験者は奥行き方向に呈示される視覚手がかりおよび聴覚手がかりの知覚距離をそれぞれ回答する。線形回帰を用いて実際の手がかり位置に対する知覚位置を求める。視覚探索課題では,線形式から聴覚手がかりの知覚位置を推定し,音の知覚位置と一致する場所に視覚標的を呈示した場合(知覚的一致条件)および物理的空間上で一致する場合(物理的一致条件),どの空間にも不一致の場合(不一致条件)の視覚探索成績を比較する。この計画で得た知見は,主に基礎心理学会や国際会議で発表予定である。
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