今年度の研究成果として、カチオン性白金(II)触媒およびカチオン性金(I)触媒を用いたピリリウムカチオンを経由するジイン-カルボニル/インドール-イン-カルボニルとアルケンの分子間連続環化反応の開発、および同内容の学術論文の発表が挙げられる。 2000年頃より、さまざまな金属触媒を用いたピリリウムカチオンを経由する環化反応が報告されてきた。しかし、金属触媒と化学選択性の関係性を解明する研究や、連続環化反応への応用研究は数例に限られており、さらなる研究・発展の余地が残されていた。 本研究において私は、先行研究で使用されていたイン-カルボニル化合物の末端ベンゼン環のオルト位に新たなアルキン部位を付加することで新規基質のジイン-カルボニル化合物を合成し、その基質をカチオン性白金(II)錯体触媒とカチオン性金(I)錯体触媒のそれぞれと反応させることで、相異なる連続環化反応が進行することを見出した。つまり、カチオン性白金(II)錯体触媒を反応させると、二度のピリリウムカチオン形成を経由する[4+2]環化反応が二回進行し、ビス(ジヒドロナフタレン)誘導体を与えることが分かり、一方でカチオン性金(I)錯体触媒を反応させると、ピリリウムカチオンを経由する[4+2]環化反応後にキノジメタン中間体が生じ、続けてアルキン部位との異なる[4+2]環化反応が連続して進行し、ビジクロオクタン誘導体を与えることが分かった。また、カチオン性金(I)錯体触媒による連続環化反応については、アルキン部位をより求核性が高いインドール環に置換することで、生成物の収率を向上させることに成功した。 以上より、本研究結果はピリリウムカチオンを経由する環化反応において、反応制御因子を解明するための知見およびカスケード反応開発の新たな設計指針となりうるものであると言える。
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