研究課題
本研究は、標的アイソトープ療法において未だ確立されていないオージェ電子がもたらす治療効果の期待値を正確に調べると共に、オージェ電子の臨床利用を見据えた上でその実用性を評価し、解決すべき課題や今後の研究方針を明確化する。このために、まずDNAに結合するPt-191標識白金化合物を用いて、DNAを標的とするオージェ電子の有効性を評価する。本年度の研究計画として、下記の課題を計画した。(1) 本研究で使用するオージェ電子放出核種である白金の放射性同位元素(191Pt)について, 標識や調剤に適した化学形/溶液組成/放射能濃度で191Pt原料が得られるように、固相カラムを用いた簡便な分離精製スキームを構築する。(2) 製造した191Pt原料を用いて、DNAを標的とする191Ptを標識した放射性白金化合物を合成する。(3) 得られた放射性白金化合物を用いた生物学的評価を行い、オージェ電子におけるDNA標的の有効性を評価すると共に、求められる標的分子の条件について考察する。結果として、加速器を用いたイリジウムからのPt-191製造法開発とPt-191標識化合物の合成法開発を行い、薬剤合成・生物評価に適した量・化学形のPt-191が製造可能となった。本技術は世界的にも達成されていないもので、今後のオージェ電子治療開発において、Pt-191という新たな選択肢を提示することができた。また得られたPt-191を用いて191Pt-cisplatinの標識を達成し,それらの生物評価を世界に先駆けて実施した。薬剤の取り込み率の低さなどに改善点は見つかったものの、Pt-191標識化合物は二重鎖切断などのDNA損傷を引き起こし得ることが示された。
2: おおむね順調に進展している
コロナウィルス蔓延に伴うラボ閉鎖等による影響はあったものの,Pt-191の製造法や標識合成法の開発,そして191Pt-cisplatinの生物評価を実施することができ,今後の薬剤開発に重要な知見を得ることができている。
当該年度で得られた製造法・標識合成法を活かして,DNAを標的とするPt-191標識化合物を開発し,そのDNA標的性・障害性を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Sci. Rep
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Int. J. Mol. Sci.
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