研究課題/領域番号 |
20J20553
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
LEONG IAT WAI 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | ナノポア / イオン電流 / ナノ粒子 / 塩濃度勾配 / 電気浸透流 |
研究実績の概要 |
ナノポア(ナノメートルスケールの細孔)を用いたDNAシークエンサー検出技術が注目されている。しかし、検出物の高い泳動速度はクリティカルな課題として残っている。本研究計画では、ナノポアを作製した固体メンブレンの上下に異なる液体を注入し、ナノポア近傍で形成する液体―液体界面を用いて、1個の検出物のダイナミクスの制御、及び検出物を捕捉させるナノポア計測法を開発する。 本年度は、電解質溶液の塩濃度勾配存在下のナノ流体特性とイオン電流整流性についての実験を行った。直径数百ナノメートルのポアの両側に異なる塩濃度の電解質溶液を注入し、ナノポアを介した電流―電圧特性を測定した。2種類の電解質溶液の濃度比によって、特異な電流―電圧特性が発現することを見出した。例えば、濃度比10ではイオン電流整流特性、濃度比100では負性抵抗特性が見られた。シミュレーションによって、これらの特異な電流―電圧特性は、ナノポア近傍のイオンが電気浸透流の力で泳動させられ、ポア抵抗が変化したことに起因すると明らかにした。この電気浸透流由来のイオン輸送現象は、マイクロメートルスケールのポアでも見られることが判明した。これにより、ナノポア空間を占有する異なる塩濃度の溶液間の競合による抵抗スイッチングの基礎原理を確立した。また、塩濃度勾配存在下での粒子計測では、ポア近傍の電気浸透流の影響が強いため、通過する検体粒子が減速される結果が得られた。実験結果とマルチフィジックスシミュレーションを組み合わせることで、粒子が減速される原因はメンブレン表面の電荷密度と強く関係することが示された。この結果はナノポア計測における高い泳動速度を減少させ、DNAシーケンシングなどの1分子解析技術の精度向上に寄与する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の研究目的は、ナノポアの中に液-液界面を形成し、ナノポア内の液-液界面を介したナノ流体現象を明らかにすると共に、ナノ粒子をターゲットとした1 粒子のナノスケール位置制御法を創成することである。現段階では、ナノポアを介した異なる塩濃度の電解質溶液の電流―電圧特性を詳細に検討した。イオン輸送を考慮したマルチフィジックスシミュレーションにより実験結果の解釈に取り組み、流体とイオンの流動ダイナミクスを解明したところ、通過した粒子が受けていた電気泳動力と流体抗力の定量的な計算が成功した。得られた成果を2報の論文にまとめ、着実に研究計画を遂行した。液-液界面アシストナノポア用いて電気泳動的に1粒子・1分子計測が可能であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の結果から得られた実験データに基づき、液-液界面を生成可能な液体の組み合わせ:i)水層二相系、ii)塩溶液と有機溶媒の二相系、iii)塩溶液とイオン液体の二相系のイオン電流-電圧特性を測定し、液-液界面の条件選択を検討する。そして、ナノポアの構造と液体の組み合わせの最適化条件を解くことにより、1粒子のダイナミクスの制御、及び単一粒子を捕捉させるナノポア計測法を開発する。
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