研究課題/領域番号 |
20J20572
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
久野 元気 東京工業大学, 工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 片側大腿切断者 / 歩行 / 角運動量 / 転倒 / 義足 |
研究実績の概要 |
日本には約1万人の大腿切断者が存在しており,その約半数が年間で1回以上の転倒を経験する.彼らが歩行中に転倒を引き起こす要因のひとつとして,全身動作の不安定性があげられる.ヒトの歩行においては,身体を構成する各体節が互いの角運動量を相殺することで,全身の安定性を保っている.しかし,左右非対称な脚を有する片側大腿切断者にとって,歩行中に全身の角運動量を調整し,安定性を維持することは非常に困難である.では,こうした片側大腿切断者は どのように全身動作の安定性を維持しているのか? 全身動作の不安定性は,臨床現場における即時介入によって改善可能なのか? 片側大腿切断者の動的安定性に関する知見は皆無であるため,上記の問いを解明することは,切断リハビリテーションを改善する上で急務であるといえる.そこで本研究では,片側大腿切断者の全身の歩行安定性を定量評価し,転倒防止に向けた歩容改善手法を構築することを目的とする.この目標を達成するため,2020年度までに,片側大腿切断者14名・健常者14名の歩行動作を光学式三次元動作解析装置で計測し,合計28名分の歩行データセットを構築した.矢状面における片側大腿切断者の全身の角運動量を算出し,健常者と値の比較を行った.結果,片側大腿切断者は,義足肢の接地期において,より大きな角運動量の値の範囲をとることが分かった.これは当該期間において,片側大腿切断者が健常者よりも大きな転倒リスクを抱えていることを示唆している.加えて,個人特性に紐づく角運動量の調節機構の検討を行ったところ,角運動量の値は切断者個々人が使用する義足の特性(質量・形状など)に大きく影響を受ける可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度までに,片側大腿切断者14名・健常者14名の歩行動作を,光学式三次元動作解析装置で計測し,合計28名分の歩行中の角運動量に関する標準データセットを構築した.同時に行った個人特性のヒアリングから,角運動量の制御機序を大局的に明らかにし,個人特性に紐づいた調節機構を検討した.これまで大腿切断者の義足歩行を対象とした研究では,義足側の質量や慣性パラメータを詳細にモデル化した例がなく,歩行中の全身の角運動量を正確に算出することが困難であった.しかし本年度構築した解析モデルにより,身体及び義足特性(断端長・膝継手・足部・義足長)に基づいた全身の角運動量の算出が可能となった.本解析モデルは次年度以降のモデル作成にも応用可能である.以上のように計画通りの成果が得られているため,本研究は概ね順調に進んでいると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は,本解析モデルを組み込むことで,慣性センサを用いた角運動量計測システムの構築を進めていく予定である.慣性センサによる運動計測装置を用いて,簡便に角運動量を計測するシステムを構築する.全身の角運動量の変化量は,地面反力によるモーメントの時間積分値と一致する.したがって,慣性センサによる運動計測と同時に地面反力の計測も行い,算出された角運動量の妥当性を検証していく.加えて,身体特性を考慮した解析モデルの修正・検討も行う.
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