研究課題/領域番号 |
20J20573
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
比護 遥 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 読書 / 政治文化 / 中国近現代史 / メディア史 / グローバル・ヒストリー |
研究実績の概要 |
本研究は、読書に対するイメージの変遷を通じて、近現代中国の政治文化の特質を明らかにしようとするものである。前年度までに、民国期(特に1930年代から1940年代)、毛沢東時代(1950年代から1970年代)、現代(主に2000年代以降)についての個別研究を積み重ねてきたため、博士後期課程の2年目にあたる本年度は、前年度からの課題として残っていた国際的な成果発信を通した個別研究のブラッシュアップに取り組むとともに、これまで積み重ねてきた個別研究をもとに全体的な視点から博士論文を具体的に構成していく作業に取り掛かった。以下、二点に分けて今年度の研究内容を詳述する。 ①国際的な成果発信を通した研究のブラッシュアップ 研究の性格からして日本以外からの視点を取り入れて研究内容をさらに深めていくことは不可欠であるため、オンライン等を通じた報告の機会は積極的に活用することを試みた。第一に、華中科技大学が主催するワークショップにおいて報告を行った。この報告は、ワークショップのテーマであるメディア考古学の視点と結び付けつつ、研究の理論的視座と全体的な見通しを示そうとしたものである。中国から見た「読書」という行為への視点について多くの示唆的なコメントを得ることができた。第二に、華東師範大学と東洋文庫が主催する日中共同研究ワークショップにおいて報告を行った。この報告は、読書と対極にあると考えられがちな焚書という行為の中国における語られ方を通して、中国における読書の重要性を逆説的に浮かび上がらせることを試みたものである。 ②博士論文の構成への着手 これまでの個別研究の積み重ねにより、博士論文の骨子となる材料も揃ってきたため、全体の問題提起に関わる部分の追加や個別研究の補足調査をしつつ、具体的に組み立てていく作業にも着手した。とりわけ、先行研究を整理する部分について新たに書き下ろすことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国の研究者との研究会の場で報告をするとともに、博士論文としてまとめる作業を進められた点においては、国際的な視野を持った研究として発展させるための大きな進展が見られた。 ただ、現代中国の読書文化について、台湾及び香港の間での書店の越境現象に着目しつつ、その政治性を複層的に捉えようとする前年度に執筆した論文""Reading across the strait: cultural politics of the two bookstores in Greater China""を国際学会誌に投稿して掲載することを本年度の目標としていたが、Inter-Asia Cultural Studies及びInternational Communication of Chinese Cultureの二誌のいずれにおいても不採択という結果に終わったことは反省点として残る。準備期間が短かったこともあり、調査がまだ十分ではなかったことが原因として考えられる。この結果を受けて、本年度はまず「海峡を越える読書:中華圏における書店の文化政治学」と題して中国現代史研究会(2021年9月12日)において日本語で報告を行い、課題を洗い出すことに努めた。
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今後の研究の推進方策 |
日中共同研究ワークショップにおける報告は、博士論文全体の中での問題意識の導入部分である序章に相当するものであると同時に、これ自体としても先行研究のほとんどない新しい視点からの挑戦的な研究であり、中国の研究者からは好意的な反応とともに的確な批判を多くいただくことができた。また、東京でのハイフレックス形式での研究会であったため、日本の中国史研究者とも直接会って議論することができた。ここでの指摘を踏まえ、問題意識をより明確にしたうえで深めていく作業に取り組みたい。 また、論文掲載がまだ実現できていない英語論文については、中国現代史研究会での指摘を含め、論証の不十分な点などに多く気づくことができたため、それらを修正しつつ、今後はまずは英語の学会にエントリーするなど、段階を踏みつつこの研究成果を生かすことを心がけたい。また、この論文は、研究計画全体のなかでは、脱国境的な視野から研究対象を文脈づけるとともに、研究結果の現代的意義を確認するものであるため、博士論文全体の構成との関係性なども踏まえながら論文として仕上げていく作業をしたい。 さらに、これまでの個別研究の成果を博士論文としてまとめる作業に着手したことで、全体としての整合性や議論の厳密性における不備にも気づくことができた。次年度に博士論文を完成させることを目標としているため、これらの諸課題を乗り越えつつ、着実に書き上げることを目指したい。また、博士論文を執筆する上では、諸研究の中での位置を意識したうえで、その後どのようにさらに発展していけるかまでをも視野に入れられるようにしたい。
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