研究課題/領域番号 |
20J20598
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
飯澤 優太朗 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | ハドロン物理 / カイラル対称性 / ストレンジネス |
研究実績の概要 |
本研究課題は、核媒質中のK中間子からストレンジクォーク凝縮に関する情報を抽出し、カイラル対称性の部分的回復におけるストレンジネスの役割を調べることを目的としている。 本年度は、主にK^-d→πΛN過程を用いた荷電対称性の破れについての研究を行った。ストレンジネスを含むバリオンであるΛを含むハイパー核実験から、ΛpとΛnの間の荷電対称性の大きな破れが示唆されている。したがってΛpとΛnの散乱長においても荷電対称性が破れていると考えられる。その破れを実験的に検証するために我々はK-d→πΛN(π^-Λpとπ^0Λn)過程を提案した。これらの過程は、始状態が同じでかつ終状態が荷電対称的なため、実験的にはπ中間子の電荷で過程を区別することができ、かつ理論的には同じフレームワークを用いて計算を行うことができるという特徴がある。ΛpとΛnの散乱長の情報について、それぞれの過程の断面積からどのように引き出すことができるか理論計算を行った。結果として、バックグラウンドが大きいため、これらの過程の断面積から散乱長の違いを定量的に得ることは難しいことがわかった。一方断面積の比を取ることでΛpとΛnどちらの散乱長が大きいかを定性的に引き出せる可能性を見出した。この研究は実験系研究者との共同研究であり、zoom等で議論を行った。 上記の研究成果については日本物理学会第76回年次大会において口頭発表を行い、また学術論文としてまとめる段階に入っている。 来年度以降への準備として、核媒質中のカイラル摂動論のフレーバーSU(3)への拡張について議論を始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度始より、Λ粒子と核子の相互作用における荷電対称性の破れを測定する方法の検討を始めた。反応計算の理論手法を学びつつ、荷電対称性の破れを効率的に測定するハドロン反応の検討を行った。その結果、K-d→πΛN反応でπ中間子の電荷を選ぶことで、Λp とΛn の相互作用の情報を同時に得られることがわかり、それらの反応断面積の比を取ることで、モデル依存性が小さい形で荷電対称性の破れの性質を測ることができることがわかった。さらに、背景事象となる反応過程を調べ、より効率的に測定できる実験条件を調べた。これらの研究成果は、日本物理学会第76回年次大会で口頭発表を行い、現在学術雑誌へ投稿する原著論文を執筆中である。また、研究動向を調査するために、日本物理学会秋季大会、国内研究会2件に参加し情報収集を行なった。次の研究テーマとして、核媒質中でのストレンジクォーク凝縮の変化をK中間子核子散乱の実験データから引き出す方法の検討に入った。
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今後の研究の推進方策 |
予定していた海外で行われる国際会議での研究成果発表が行えなかったので、研究期間の延長を行った。来年度は、まずK-d→πΛN反応に関する研究を進め、論文としてまとめる。また、核媒質中でのストレンジクォーク凝縮の変化をK中間子核子散乱の実験データから引き出すために、まず核媒質中でのストレンジクォーク凝縮について解析的な計算を行う。その後、カイラル摂動論を用いてK中間子核子散乱の実験データから低エネルギー定数を求め、核媒質中でのストレンジクォーク凝縮の変化を見る。
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