本年度は慢性炎症に伴う肝発癌の病態生理の解明の一端として、肝非実質細胞(星細胞)の細胞老化に伴って発現が増えてくるRNA編集酵素ADAR1に着目した研究を進めた。 まずADAR1蛋白の局在をモニターするために、ADAR1のC端に11アミノ酸のHiBitタグを融合発現するよう、肝星細胞由来の細胞株LX2細胞に対して遺伝子編集手法を用いて 当該シークエンスをノックインした細胞を樹立した。 ADAR1蛋白が、放出される細胞外小胞(EV)に含まれるかどうかを、単離したEVとLgBiT蛋白との混合によるNano-luciferaseの生成の有無によって高感度にモニターできる系を樹立した。これによって、肝星細胞が細胞老化をきたすと細胞内のADAR1蛋白の発現が増えるとともに、EV内のADAR1蛋白も増えることを確認した。 同定したEV中のADAR1蛋白が、近隣実質細胞に取り込まれるかどうか、ヒトiPS細胞由来の正常肝実質細胞と、水平連結チャンバーを用いて検討した。その結果、老化した肝星細胞から放出されたADAR1蛋白を含むEVは肝実質細胞に取り込まれることが、連結水平チャンバーとレポーターアッセイによって、確認された。 肝実質細胞に取り込まれたADAR1はRNA編集酵素として機能し、肝実質細胞内のRNAにA to I 変異を導入し、特に、肝臓での発癌・癌進展に関わることが既に報告されているAZIN1遺伝子の変異を惹起することを確認した。
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