研究課題/領域番号 |
20J20651
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
高橋 怜子 横浜国立大学, 理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 把持生成 / デジタルハンド / 把持可能性 / 高齢者 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,多様な手機能を再現可能なユニバーサルデジタルハンドを作成し,そのハンドを用いた任意の製品モデルに対する把持姿勢を生成することで,多様な手による製品使用性の仮想評価を実現し,ユニバーサルデザイン製品の設計を支援することを目指している. 今年度は,(1) 把持姿勢生成時の力学的把持可能性の考慮,(2)把持生成が行えるハンドモデルの機能制限状態の追加 の二点に注力して研究を進めた. (1)疾患手による把持においては,健常手に比べ把持が不安定になりやすく,従来の把持生成アルゴリズムでは把持が不可能な姿勢が生成されやすいことが予想された.そこで,デジタルハンドによる把持生成アルゴリズムに,力学的把持可能性の考慮を加えた.これにより,なるべく把持可能な姿勢の生成および,把持可能な姿勢を生成できない把持対象物である場合にそれを提示することが可能となった.生成姿勢の妥当性の向上に貢献し,また同時に,製品仮想評価時に重要となる把持可能性の評価を実現した. (2)把持可能性の算出時に筋力や摩擦を考慮することで,これらが減衰したハンドモデルによる把持生成が可能となった.実際に,加齢による関節可動範囲の減少・摩擦係数の低下・筋力の衰えを考慮した高齢者の把持の模擬手法を開発した.また,母指関節可動域および母指筋力の低下を反映した疾患手の把持生成も試みた.このように,把持生成に使用可能なハンドモデルの機能制限を増やすことに成功し,ユニバーサルデジタルハンドの開発に貢献することができた.特に筋力低下は多くの疾患手で生じる機能制限であり,これを反映可能としたことは大きな成果である. また,把持生成アルゴリズムの高速化も実現し,製品評価システムに実際に使用できる把持生成アルゴリズムの開発を試みた. これらの成果については,国際会議1件と国内会議3件で発表しており,論文を投稿準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,健常手に人為的制約を加えた手による把持観察を行い,ユニバーサルデジタルハンドを作成する予定であった.しかしコロナウイルスの影響により,把持実験の実施が難しかったことから,年次計画の変更を行い,シミュレーション環境における開発を優先した. 実験による把持観察を行わない範囲でではあるが,疾患手の把持について研究された文献などを参考にユニバーサルデジタルハンドの開発を進めた.また,本来は最終年度に取り組む予定であった把持姿勢の評価部分や把持生成手法の改善について,前倒しで研究を行った.このため,年次計画とは大幅な変更があったものの,研究全体として見れば概ね計画通りの進捗を得られたものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
製品評価システムに利用できることを目標に,把持生成アルゴリズムの更なる実用性の向上を目指す. また,製品使用性の仮想評価を実現するため,把持姿勢の評価および製品の評価に関しての研究を進め,人間にとっての「持ちやすさ」を生成姿勢から定量的に評価する手法を開発する予定である. ユニバーサルデジタルハンドの開発に向けては,文献から再現できる要素については引き続きシミュレーション環境で開発を行い,コロナウイルスの状況を見ながら必要に応じて把持実験も行っていく予定である.例えば麻痺手の把持については,把持傾向が文献で示されているため,これを反映したユニバーサルデジタルハンドの開発および把持生成の実現を試みる予定である.
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