オオクロコガネは野外で一晩おきに活動し、約48時間周期の概「倍」日リズムを示すことが知られる。本研究では概倍日リズム形成に関わる脳領域、時計遺伝子を解析するため、時計遺伝子のRNA干渉法(RNAi)によるノックダウン実験及び時計細胞の探索を行った。 RNAiの実験群として、24時間で振動する時計遺伝子periodとcycle、48時間周期で振動するtimeless、clockを選択し、dsRNAを頭部に注入後10または20日間恒暗条件にて自由継続周期を調べた。また、注入から20日目に脳を取り出し、抽出したmRNAを用いて定量PCR解析により相対mRNA量を測定した。period、timelessのRNAiにおいて平均自由継続周期が約7時間有意に短縮し、clock、cycleのRNAiにおいては過半数の個体が無リズムとなった。これら個体では、対照群と比べ時計遺伝子発現量が有意に減少した。これらの結果から、時計遺伝子の発現が概倍日リズム形成に必要であり、24時間周期で発現し概日時計として機能すると考えられるcycleとperiodの抑制では概倍日リズムが消失あるいは短周期化することから、概日時計遺伝子の概倍日リズム形成への関与が明らかになった。 periodやcycleを発現する時計細胞の分布を調べるために、脳切片のin situ hybridizationを行った。両mRNAのanti-senseプローブに対するシグナルが視葉副視髄領域に存在する約60個の細胞のみに確認され、RNAiや除去実験と合わせ視葉内に概倍日リズム形成機構が存在することが示唆された。 生物リズム研究ではこれまで、環境周期に等しい周期の生物時計が行動や生理のリズムを駆動すると考えられてきたが、本研究により概日時計が時計の整数倍周期のリズムを形成しうることが示唆された。
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