研究課題/領域番号 |
20J20681
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
桑原 歩 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 原始惑星系円盤 / ペブル集積 / 惑星形成 / ダスト / 流体計算 |
研究実績の概要 |
誕生したばかりの星の周りには、ガス・ダストから成る円盤状の構造(原始惑星系円盤)が形成される。近年の観測から、原始惑星系円盤内に存在するダストの分布において特徴的なリング・ギャップ構造が多数発見されている。ダストのリング・ギャップ構造の起源については議論が続いている。ダストのリング・ギャップ構造に関する従来研究は、大質量惑星(〜木星質量)の存在を仮定する。大質量惑星は強い重力によって自身の軌道付近から円盤ガスを取り除き、ガスのギャップ(ガスが枯渇した領域)を作る。通常ダストは円盤ガス中を漂いながら中心星方向に移動していくが、ガスギャップの縁では移動が止まる。それに伴い、ダストのリング・ギャップ構造が作られる。故に、従来モデルはガスとダストの空間分布に相関が現れることを主張する。しかし、観測的にはガスとダストの空間分布間の相関は判然としない。更に、太陽系外惑星の観測によると、大質量惑星の存在頻度は〜10%程度と推定されており、ダストのリング・ギャップ構造が普遍的に存在する事実に合致しない。最も豊富に存在すると考えられているのは地球質量程度の小質量惑星だが、重力が弱いためガスのギャップを作れず、したがってダストのリング・ギャップ構造形成は困難であると見なされてきた。 本研究では、原始惑星系円盤に埋没した地球質量程度の小質量惑星が駆動するガスの流れに着目する。原始惑星は重力によって周囲の円盤ガスの流れを乱し複雑なガス流れ場を駆動する。公開流体計算コードAthena++を用いた3次元流体計算を実施し、惑星が駆動するガス流れ場に関するデータを得た後、ダストの運動を計算するコードに流体計算データを組み込んだ。計算の結果、惑星が駆動するガス流れ場がダストをせき止め・掃き出すことによって、ダストの空間分布にリング・ギャップ構造を形成可能であることを突き止めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、前年度に取り組んでいた研究を更に発展させた。この研究は、前述のリング・ギャップ構造の起源の解明に繋がる可能性がある重要な研究である。惑星は、原始惑星系円盤内で形成される。近年の高解像度流体シミュレーションによって、原始惑星系円盤内に埋没した成長途中の原始惑星の周囲には複雑な3次元ガス流れ場が形成されることが明らかになった。惑星が駆動するガス流れ場は原始惑星系円盤内に存在する小さなダストの運動を変化させるので、ダストの空間分布に影響を及ぼす可能性がある。 令和3年度における研究を遂行するにあたり、(1) まず幅広い惑星質量・原始惑星系円盤パラメータに対して3次元流体シミュレーションを実施し、原始惑星周りに形成される3次元ガス流れ場を計算した。惑星が駆動するガス流れ場は、想定する惑星質量や原始惑星系円盤パラメータに応じてその形態が変化する。流体シミュレーションの実施に際して、国立天文台スーパーコンピュータXC50を使用した。(2) 次に、得られた流体シミュレーションデータをもとにダストにかかるガス抵抗力を計算し、惑星が駆動するガス流の影響下におけるダストの運動を計算した。(3) 最後に、(2)で得られた、ガス流の影響を受けたダストの運動速度に関するデータを用いてダストの移流及び拡散を計算し、原始惑星系円盤内に存在するダストの面密度を計算した。その結果、3次元ガス流れ場の形態に応じて、惑星軌道周辺においてダストがリング状に蓄積または枯渇することを明らかにした。この成果は複数の学会において発表済みであり、また本研究成果をまとめた論文を国際誌に投稿済みである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、令和3年度に実施した研究内容を更に発展させる。具体的には、原始惑星が駆動するガス流れ場の影響を考慮に入れたダストの成長・輸送過程を明らかにする。惑星は~cmサイズにまで成長したダスト(ペブル)を集積することで成長する。ペブルの集積率はペブルサイズ、及びペブルの空間分布に依存する。原始惑星系円盤内に埋没した惑星周りのペブルのサイズ分布・空間分布を明らかにすることで、惑星-円盤ガス-ペブルの相互作用を考慮した惑星成長モデルの確立を目指す。
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