細胞のストレス応答機構の一つとしてALIS(aggresome-like induced structures)と呼ばれるタンパク質凝集体を形成する機構がある。ALISは、異常タンパク質を一時的に隔離しておくコンパートメントであると考えられてきた。一方、細胞内に凝集した異常タンパク質は、アルツハイマー病などの神経変性疾患に共通する病理所見であり、その細胞毒性が神経細胞死の原因と考えられる。しかし、タンパク質凝集体の形成機構や、タンパク質凝集体による細胞死誘導機構には不明な点が多く残されている。本研究では、申請者が独自に見出した、ALIS形成依存的に細胞死(パータナトス)を誘導する薬剤CTXを用いて、ALISによる細胞死誘導機構の解析を目的として研究を遂行した。 今年度は、①ALISによるミトコンドリア集積機構の解明と、②パータナトス誘導と細胞周期の関係性に関する解析を行った。ALISによるミトコンドリア集積機構の解明では、ALISおよびミトコンドリアが微小管を介した細胞内輸送によって微小管形成中心に集積することを明らかにした。また、その際に核の構造が分裂前期の核に酷似した形に変化することに着目し、細胞周期に関する解析を進めた。その結果、ALIS依存的に分裂初期において細胞周期が停止し、その後細胞死が誘導されることが明らかとなり、ALIS誘導性細胞死には細胞周期の進行が必要であることが示唆された。また、ALISを除去することによって分裂が再開されたことから、ALISによる細胞周期停止は可逆的であることが示され、ALISは細胞内ストレス環境のバロメーターとして機能することが示唆された。以上から、ALIS誘導性パータナトスは、分裂初期まで細胞周期が進行した細胞のうち、ストレスが過度に蓄積し、細胞内環境が悪化した細胞のみを選択的に排除する機構である可能性が考えられた。
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