現在みられる植生(多様性や種組成)は、現時点の環境条件だけでなく、過去の土地利用によっても強く影響を受けて成立していることが世界的に多く報告されている。しかし、過去の土地利用の影響が長期に残るメカニズムは未だ十分に解明されていない。申請者は近代的な土地利用のひとつであるスキー場に維持されている草原(半自然草原)において、 土壌条件や光環境などの現在の環境要因以上に、約50-80年前の森林化の有無が現在の在来草原性植物の多様性や種組成に影響を与えていることを発見し、そのメカニズムの解明を目指した。今年度は、過去の森林化による土壌中の栄養塩量(リン・窒素など)や菌類相(真菌・バクテリア類)の変化により草原性植物種の移入後の定着が妨げられるかという仮説の検証を行なった。前年度に採取したスキー場50地点の土壌サンプルおよびその周囲1平方メートル以内に生育している草原性植物7種の細根サンプルからDNA抽出を行い、PCR実験にてDNA断片の増幅を行なった。対象種は草原に広く生育している種(ススキ・ヨモギなど)や森林化の有無と分布との相関が見られた種(アヤメ・オカトラノオ・ワレモコウ)であることを基準に、様々な分類群からの選定を行なった。
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