研究課題/領域番号 |
20J20761
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
川越 聡一郎 北海道大学, 総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 分子シャペロン / NMR / cryo-EM / 複合体立体構造 |
研究実績の概要 |
細胞質で合成されたタンパク質の約3割は細胞質外へと輸送されるが、この生体膜をこえるタンパク質輸送においては、複数のシャペロンにより構成されるSec pathwayが主要な役割を担っている。本研究では、Sec pathwayにおける最初のステップである、trigger factor (TF) シャペロンとSecBシャペロンとの複合体形成反応に着目し、TF-SecB複合体の立体構造決定による相互作用様式の解明を目的としている。 溶液NMR法、cryo-EM法どちらの測定手法についても、TFとSecBとの解離定数Kdが20 μM程度であることから予想される、TF-SecB複合体の安定性の低さが課題となる。そこで、安定なTF-SecB複合体を取得するため、共発現系によるTF-SecB複合体の調製に着手した。TFとSecBをペプチドリンカーにより連結したTF-SecBとSecB単体を共発現する系を構築し、この2種のベクターのコピー数の制御により、TF-SecBとSecBを1:3の比で発現させることに成功した。その結果、単離精製された目的タンパク質は、SEC-MALS測定により分子質量116 KDaと決定でき、これはSecBの四量体にTFが一分子だけ結合したTFmono-SecBtet複合体であると考えられた。 TFmono-SecBtet複合体について高度安定同位体標識法を適用し、 NMR測定を行なった結果、TFとSecBとの間の会合界面に存在するメチル基間のNOE信号の観測に成功し、その構造計算によって、低分解能ながらも複合体構造の算出をすることができた。また、cryo-EMによる構造決定では、複合体全体の三次元密度マップは得られていないものの、部分的な密度マップを取得することには成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、TF-SecBシャペロン複合体の立体構造解析に取り組んだが、この複合体の解離定数が20μM程度であり、容易に解離してしまうことから、TFとSecBをペプチドリンカーにより連結したTF-SecBとSecB単体を共発現する系を構築し、この2種のベクターのコピー数の制御により、TF-SecBとSecBを1:3の比で発現させることに成功した。その結果、単離精製された目的タンパク質は、SEC-MALS測定により分子質量116 KDaと決定でき、これはSecBの四量体にTFが一分子だけ結合したTFmono-SecBtet複合体であると考えられた。この複合体の分子量は通常のNMRを用いた構造解析の上限を超えているものの、高度な安定同位体標識法により、TFとSecBとの間の会合界面に存在するメチル基間のNOE信号の観測に成功し、その構造計算によって、低分解能ながらも複合体構造の算出をすることができた。一方、主な解析手法として期待していたcryo-EMによる構造決定では、TFmono-SecBtet複合体全体の三次元密度マップは得られていないものの、部分的な密度マップの取得することには成功した。このように、今年度の主な目標である安定なTFmono-SecBtet複合体の作成には成功し、さらに、その複合体の構造解析では高度なNMR手法を用いて、低分解能ではあるものの、TFmono-SecBtet複合体の立体構造を決定できた。一方、Cryo-EMについては、TFmono-SecBtet複合体が解離していることが示唆される結果となり、実験計画を再検討する必要があるが、解離を防ぐ方策についてはすでに目途が立っており、来年度には計画通り、複合体全体の三次元密度マップの取得が可能になると期待できる。以上のような進捗状況から、おおむね順調に研究が進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
TF-SecB複合体についてのcryo-EM測定では、全体構造の密度マップが得られず、部分的な密度マップの取得に留まっている。これはSecBからのTFの解離、もしくは結合状態における構造多型が、TF に対応するマップの取得を困難にしていると考えられる。そこで本年度は、クロスリンカーを用いてTFとSecB間に共有結合を形成させ、結合状態を安定化させた状態で、cryo-EM測定に供する予定である。NMRについては、TFとSecB間の分子間NOEの取得と、そのNOE情報を束縛条件として用いた構造計算を実施したが、算出された立体構造は低分解能である。今年度はNOESYの追加測定を行い、高分解能な立体構造解析に十分な量の構造情報を取得する。
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