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2021 年度 実績報告書

常磁性NMRとCryo-EMにより明らかにする分子シャペロン複合体の協働機構

研究課題

研究課題/領域番号 20J20761
研究機関北海道大学
特別研究員 川越 聡一郎  北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
研究期間 (年度) 2020-04-24 – 2023-03-31
キーワード分子シャペロン / NMR / cryo-EM / 複合体立体構造 / 液-液相分離 / 転写因子
研究実績の概要

生体内におけるタンパク質動態の恒常性は,分子シャペロンにより維持されている.このシャペロンシステムの包括的な理解を目指し,本研究では,1. 分子シャペロン複合体の協働機構の解明と,2. シャペロンの転写レベルを制御する転写因子Heat shock factor-1 (Hsf1) の分子機構解明を目的とした.
1.分子シャペロン複合体の協働機構の解明: ミスフォールドしたタンパク質の分解を駆動するシャペロン複合体の分子機構を,複合体の立体構造解析によって明らかにすることを目指し,クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析に取り組んだ.構造解析のためのコンストラクト最適化,発現・精製条件を検討し,高純度のシャペロン複合体を調製した.この試料を高エネルギー加速器研究機構所有のクライオ電子顕微鏡での測定に供し,これまでに良好なグリッド作製条件を最適化している.
2.Hsf1の分子機構解明: Hsf1はその液-液相分離によって形成する相分離液滴に他の転写因子を集積させ,転写を促進する一方,Hsf1液滴がゲル状液滴に相転移すると,細胞死が誘導されることが近年報告された.本研究では,Hsf1液滴の相転移メカニズムの解明を目指した.Hsf1液滴をゲル状に相転移させる要因の解明のため,光褪色後蛍光回復法によりHsf1液滴の流動性を評価した結果,酸化的雰囲気下でその流動性は著しく低下し,ゲル状に相転移した.次に,酸化的環境によりHsf1液滴がどのように相転移するのかを明らかにするため,屈折率イメージングとSEC-MALSによりHsf1の会合状態を検討したところ,酸化的条件下では液滴内部にジスルフィド結合により高次に多量体化したHsf1が観測された.これらの結果から,Hsf1は酸化的ストレスをジスルフィド結合形成により検知し,その結果生じるHsf1の高次多量体がゲル状液滴への相転移を駆動すると考えられた.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は、ミスフォールドしたタンパク質の分解を駆動するシャペロン複合体の、クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析に取り組んだ.構造解析のためのコンストラクト最適化,発現・精製条件の検討後,高純度のシャペロン複合体を調製し,高エネルギー加速器研究機構所有のクライオ電子顕微鏡での測定に供した.これまでに良好なグリッド作製条件を最適化している.さらに,本年度はシャペロンシステムの包括的理解を目指し,シャペロンの転写レベルを制御する転写因子Heat shock factor-1 (Hsf1) の分子機構解明に取り組んだ.Hsf1液滴が流動性の低いゲル状液滴に相転移すると,シャペロンの転写が抑制され,細胞死が誘導されることが近年報告されたが,Hsf1液滴のゲル状液滴への相転移機構は未解明であった.光褪色後蛍光回復法や屈折率イメージング,SEC-MALSによる分析の結果,Hsf1は酸化的ストレスをジスルフィド結合形成により検知し,その結果生じるHsf1の高次多量体がゲル状液滴への相転移を駆動することを示した.
シャペロン複合体の構造決定には現段階では至っておらず,当初の実験計画に比べ,進捗状況が十分ではない面があるが,Hsf1液滴の酸化的相転移のメカニズムを明らかにしたことは評価できる。
以上のような進捗状況から、期待通り研究が進んだと評価できる。

今後の研究の推進方策

今後は,ミスフォールドしたタンパク質の分解を駆動するシャペロン複合体の,クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析に取り組むとともに,シャペロンシステムのさらに広範なメカニズム解明を目指し,タンパク質の細胞膜外輸送を補助するシャペロン複合体の分子機構解明を目指す.タンパク質輸送に関わるこのシャペロン複合体間の相互作用様式を明らかにするため,安定同位体標識した複合体の試料を用い,弱い相互作用の解析に優れる溶液NMR法による測定を実施する.複合体での相対配置の決定に必要な結合界面におけるアミノ酸残基間の距離情報を取得するため,空間的に5Å以内に接近した原子核間の距離情報が得られるNOEを観測する.NOEから得られる距離情報をもとに,構造計算ソフトウェアCYANAを用いて高分解能なシャペロン複合体の立体構造を決定することで,シャペロン複合体の相互作用様式を明らかにする.

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)

  • [雑誌論文] Structural and Kinetic Views of Molecular Chaperones in Multidomain Protein Folding2022

    • 著者名/発表者名
      Kawagoe Soichiro、Ishimori Koichiro、Saio Tomohide
    • 雑誌名

      International Journal of Molecular Sciences

      巻: 23 ページ: 2485~2485

    • DOI

      10.3390/ijms23052485

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Regulation of Liquid-Liquid Phase Separation by Molecular Chaperones2021

    • 著者名/発表者名
      KAWAGOE SOICHIRO、MORI EIICHIRO、SAIO TOMOHIDE
    • 雑誌名

      Thermal Medicine

      巻: 37 ページ: 31~44

    • DOI

      10.3191/thermalmed.37.31

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] ストレス応答を制御する転写因子Heat shock factor1の酸化還元依存的な相転移2021

    • 著者名/発表者名
      川越 聡一郎, 松崎 元紀, 石森 浩一郎, 齋尾 智英
    • 学会等名
      第44回 日本分子生物学会
  • [学会発表] Structural Dynamics of the Trigger Factor Chaperone Regulating Proline cis/trans Isomerization in Protein Folding2021

    • 著者名/発表者名
      Soichiro Kawagoe, Hiroshi Nakagawa, Hiroyuki Kumeta, Koichiro Ishimori, Tomohide Saio
    • 学会等名
      ISMAR-APNMR2021
    • 国際学会
  • [学会発表] Structural insight into molecular recognition and catalytic mechanism of trigger factor chaperone in proline cis/trans isomerization2021

    • 著者名/発表者名
      Soichiro Kawagoe, Hiroshi Nakagawa, Hiroyuki Kumeta, Koichiro Ishimori, Tomohide Saio
    • 学会等名
      The 2021 International Chemical Congress of Pacific Basin Societies
    • 国際学会

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公開日: 2024-12-25  

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