本研究課題では、運動が腹部大動脈瘤(AAA)の進行を抑制する機序を炎症誘発性のマウスAAAモデルを用いて検討している。前年度までに、AAA誘導に対して予防的に運動を行わせるとAAA形成が減弱することが見出されていた。新たな発展的検討として既に形成されたAAAに対する運動の作用を調べたところ、AAA形成後に運動を開始した場合にはAAAは退縮しなかった。すなわち、マウスAAAモデルにおいて運動は、AAA形成のトリガーとなる炎症自体に抑制的に働くものと推測された。この推測を基に、運動による炎症抑制機序を検討した。一つ目の仮説としてマイオカインと総称される運動に伴って筋肉から分泌される分子による抗炎症作用を推測した。運動により発現が上昇し、抗炎症作用を示すと報告されている代表的なマイオカインについて検討を実施したところ、分子によって、本検討の運動方法では発現が上昇しないといった結果や、発現は上昇するものの想定される抗炎症作用を示すことができない結果が得られ、運動のAAAの形成減弱作用に対するマイオカインの関与を積極的に示す結果は得られなかった。別の仮説として運動による炎症収束促進に関連するα1アドレナリン受容体シグナリングに注目した。このシグナリングが運動のAAA形成抑制に関連している可能性を調べるために、運動に加えてα1アドレナリン受容体拮抗薬を投与する検討を行った。仮説に反してAAA誘導と同時に開始したα1アドレナリン受容体拮抗薬の持続投与は運動によるAAA形成抑制には影響せず、α1アドレナリン受容体シグナリングの関与も限定的と考えられた。
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