研究課題/領域番号 |
20J20797
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
江利口 礼央 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 秘密分散法 / 一般アクセス構造 / マルチパーティ計算 |
研究実績の概要 |
まず一般アクセス構造に対するランプ型線形秘密分散法に強安全性を付与する手法を提案した.ランプ型方式は秘密に関する部分情報の漏洩を許すことで情報比の削減を可能にする.また強安全性はその部分情報から秘密に関して意味のある情報(例えば特定の位置のビット)が漏洩することを防ぐ.本研究では,線形性を満たす任意のランプ型秘密分散法をもとに情報比を増加させることなく強安全な方式を構成する決定的なアルゴリズムと明示的な構成を提案した.ただし提案した変換手法では線形性以外の代数的構造が失われる.そのため,マルチパーティ計算などへのさらなる応用に向けて代数的構造を保存しつつ強安全な方式へ変換する手法を目指している. 続いて一般アクセス構造としきい値型アクセス構造の中間に位置するmultipartiteアクセス構造に対して乗算可能な秘密分散法の情報比の改善を行った.Multipartiteアクセス構造に特化した構成は本研究が初めてであり,適切にパラメータを設定することでプレイヤ数に関して多項式の情報比を達成でき既存方式の効率性を大きく改善している.実際,一般アクセス構造に対する既存方式をmultipartiteアクセス構造に適用することは可能であるものの,その情報比はプレイヤ数に関して指数的であり効率が悪いという問題点があった.本研究で提案する乗算可能な秘密分散法を秘密計算へ応用することによって,プレイヤの結託がmultipartiteアクセス構造で表される場合にはプレイヤ数に関して多項式の通信量で情報理論的に安全な秘密計算を実現できる. 最後にマルチパーティ計算の機能性向上のため標準的な安全性要件に加えて差分プライバシを満たすプロトコルの提案を行った.特に差分プライバシに必要なノイズの効率的な生成手法を提案し,既存手法の通信量やラウンド数を削減した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強安全なランプ型秘密分散法と乗算可能な秘密分散法の二点に関しては当初の計画通り方式の提案とその理論的評価を実現できた.強安全性については,決定的なアルゴリズムと明示的な構成を示すことで方式を具体的に構成するという実用的な意義を達成できている.乗算可能な方式についても,アクセス構造全体は包含しないものの実用的には十分広いクラスであるmultipartiteアクセス構造に対して安全性を保証でき,また情報比の面で既存方式を上回る効率性を達成できている. さらに当初の計画を推し進め,プライバシ保護技術への秘密分散法の応用も提案している. 最後に当初計画していた乗算可能な方式の改ざん耐性に関する内容についても成果を整理し論文誌へ現在投稿中である. 上記のことから本年度はおおむね計画通りに研究を進められたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
まずmultipartiteアクセス構造に対する乗算可能な秘密分散法を改ざん検知能力を持つ方式へ拡張することを目指す.論文誌による査読をもとに内容をより詳細に議論する. 続いて強安全な方式に関してマルチパーティ計算への応用に必要となる代数的構造との関係を調査する.また直接的な応用先である分散ストレージについても強安全性から従う利点を精査する. さらに差分プライバシを満たすマルチパーティ計算に関して提案プロトコルを改ざん耐性を持つものへ拡張することを目指す. 最後に現実的な通信パターンを考慮した非対話型マルチパーティ計算の効率性向上に関する成果について査読付き会議への発表を目指しその結果を精査する.
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