研究課題/領域番号 |
20J20809
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
御堂岡 拓哉 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | X線連星 / 中性子星 / X線パルス / 重力波 |
研究実績の概要 |
2015年以降、コンパクト連星合体による突発的な重力波は数多く検出されているが、パルサーや低質量X線連星(LMXB)からの定常重力波(CW)はこれまで一度も検出されていない。Sco X-1は質量降着率が高く比較的地球近傍にあるためLMXBの中で最も重力波振幅が大きいと考えられているが、自転周期が観測されていないためCW周波数が未知である。広い周波数帯域でのCW探査は広帯域で良好な信号雑音比を達成する必要があるため計算機コストが莫大にかかり、現状では検出に至っていない。X線観測によりSco X-1の自転周波数に制限がつくと計算領域が狭まり、CW検出が期待される。Vaughan+94[2]は、1987年打ち上げのX線衛星「ぎんが」を用いてSco X-1のパルス探査を行い、50/500Hzのパルス振幅上限値を平均カウントレートの0.3/0.6%と求めた。これ以降、振幅上限値は更新されていない。
本研究では時間分解能が優れ、周期解析に適しているRXTE衛星とNICER装置のX線観測データを使用し、X線パルスを系統的に探査する。まず、既にパルス検出が報告されている連星パルサーを用いて、最適なタイミング解析ソフトウェアの開発とパルス探査手法の検証を行った。結果的に、Sco X-1と似た系だと考えられているミリ秒連星パルサーのパルスを周波数等の事前情報を用いず検出する手法を確立した。
確立したデータ処理・パルス探査アルゴリズムをRXTE/NICERデータに適用しパルス探査を行った。現時点では膨大にあるデータの一部しか使用しておらず、検出には至っていない。一方で、NICERデータに対し、人工的なパルス注入による振幅上限値の導出を行ったところ、500Hzでのパルス振幅上限値は平均カウントレートの0.12%(99.9%信頼度)と算出され、これまでで最も厳しい値を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
連星中性子星X線源からの史上初の重力波検出を目指し、X線で最も明るく有力な重力波源候補である「さそり座X-1 (Sco X-1)」のX線データ解析を行った。重力波検出のためには、中性子星の正確な自転周期を知ることが必要である。Sco X-1中の中性子星は~1000Hz程度で自転していると考えられているが、おそらく振幅が非常に小さいため、いまだその自転周期は検出されていない。時間変動解析に優れたRXTE衛星やNICER衛星が取得した未開拓のアーカイブデータを用いて、周期性を探査している。Sco X-1と似た性質を持つパルサーのデータをサンプルとして用いて、周期性探査の方法を確立することができた。これによって、Sco X-1からのパルスを系統的に探査する準備が整った。
また、セイファート銀河NGC5548のX線スペクトル変動を説明するモデルを考案し、それをXMM衛星とすざく衛星のモデルに当てはめた論文を、学会誌に投稿した。さらに、修士論文で行ったテーマを発展させ、2022年度に打ち上げ予定のXRISM衛星の主観測装置(Resolve)の入射窓に使われるゲートバルブの特性を決定し、その較正ファイルを作成するとともに、一連の研究開発の成果を投稿論文としてまとめた。
以上の通り、中性子星X線源からの重力波検出のテーマを中心に、期待通り、幅広く研究の進展が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
Sco X-1は全天で最も明るい定常X線源であり、あまりにも検出光子数が多いため、機上での信号処理が間に合わない。また、情報量が多いため地上に全データを降ろすことができないため情報欠損となる(デッドタイムと呼ばれる)。これらの問題に対応するため、Sco X-1観測は特殊なモードやセットアップで行われることが多々あり、標準的な解析手順を用いることができない。NICER装置は2017年にISSに搭載されたが、現在でもSco X-1のあまりの明るさに対し、最適なデッドタイム補正の手順が定まっていない。精密な時間変動解析のためにはデッドタイム補正は必須である。
2021年度はNICER検出器チームと連携をとりSco X-1データ特有の検出器特性を理解することで、最適なデッドタイム補正手順の確立を目指す。最終的に、確立したデータ処理・パルス探査アルゴリズムをRXTE衛星、NICER装置で得られた全アーカイブデータに適用し、パルスを系統的に探査する。
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